オピニオン

2020年6月1日

知らない物を欲しいとは思わない

 タイの首都バンコク中心街にサイアム・ヘリテイジという古いホテルがある。
 毎週月曜日の夕刻、そのホテル前の歩道上に多くの人たちが集まってくる。彼らが普段どんな生活をしているかが一目で理解できるのは、バンコクの明るい雰囲気に溶け込めないほど薄汚れた地味な服装と極度に日焼けした様子からだ。
 このホテルのオーナーが私財を投じて貧しい人たちに食事を提供しているのだ。週に1回とはいえ、白米にカレーやおかずとお茶が入ったビニール袋を、列を作って受け取ってゆく人たちには感謝と安堵の表情が滲んでいる。
 ある日、いつものように食事を配る様子を眺めていると、2台の白バイに乗った警察官が通りかかり、歩道に集まっていた人びとに注意を促し始めた。
 そこへオーナーが現れて趣旨を説明すると、警官はホテル側に移動し、制服のまま食事を配る手伝いを始めたのだった。ほのぼのとする場面だった。
 食事は200人分の用意があるが、最後尾付近にいて受け取れなかった人たちが、素直に帰っていったのも爽やかだった。
 さて、同じ東南アジアでも、経済状態が遥かに悪いラオスではこのような話を聞かない。
 最近でこそ中国資本による近代化も進んでいるが、ラオスでは皆が貧しい時代が長く続いた。今も農村では米だけで食事を済ませている。水が豊かな国だから米には不自由しない。唐辛子を潰してナムプラーでもかければ立派な食事だ。それ以上のものを求めることはない。
 もちろん、こんな食事が身体にいいはずはないが、そうして生きてた人たちに、もっと栄養価の高い食材を紹介したところで、元より、知らない物を欲しいという気持ちもない。ここに「貧しい国なりの幸せ」がある。
 これが、曾野綾子女史の「何も知らせない国際協力」という発言の意味である。世界はグローバル化などしていないし、する必要もない。諸外国、特に発展途上国を、観光や商売に都合がいいとしか考えない人たちの価値観で振り回すのは良くない。女史はまた、南アフリカの諸問題について、黒人と白人の居住区を分けた方がいいと発言されて議論を呼んだが、小生は賛成だ。絶対的な貧困状態にある人たちにとって、富裕層の人たちと「共に」暮らすことなど耐えられない
 世界中を巻き込んだコロナウイルスがまだ猛威を振るっているが、主催するNGOが建設した学校のひとつがあるラオスの貧村に問い合わせてみると、5月13日の時点で、付近の村々を含め、ウイルスの感染も発症もゼロだという。人びとの生活は今まで通りごく平和だそうだ。
 その村は、タイとの国境に近いが外国人の誰も興味をいだかない。ホテルもゲストハウスもない。それが、全世界的なパンデミックから人びとを守っているのだ。羨ましいほどの幸せな生活だ。
 経済も大切だが、元通りの生活に戻る必要があるだろうか。それより、これを契機に豊かな心を育てよう。
(論説委員・伊藤佳通)

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