2020年5月10日号
熊本地震物故者慰霊法
◆阿蘇の崩落現場にお題目響く
熊本県仏教会と日蓮宗熊本県宗務所は4月12日、南阿蘇村の長陽西部小学校跡地で熊本地震物故者慰霊と復興祈願の法要を営んだ。
平成28年4月16日に発生した同地震での犠牲者275人(関連死含む)への追悼と未だ仮設住宅に住む人への安穏などを願い、僧侶檀信徒約50人が雨のなか、崩落した阿蘇大橋と隣接する山の現場に向かってお題目を響かせた。
同法要は震災翌年から熊本県宗務所主催で営まれてきた。毎年、各宗派の僧侶も参列し、ともに祈りを捧げてきたが、今回初めて県仏教会との合同主催となった。また新型コロナウイルス感染拡大防止のため、出仕者も大幅に減らして行われた。
法要後、同県仏教会の伊藤公明会長は「物故者の人たちの願いを遺された私たちの人生に活かすことが、見えないいのちとして生き続けることです」と挨拶。続いて導師を務めた濵田義正所長は、「震災から4年が経ち、人びとの記憶の風化が懸念されています。亡くなられた人の思いや、地震の怖さ、目にした惨状、教訓。1人でもいい。伝えましょう。熊本地震を」と訴え、目頭を熱くした。
平成28年4月14日の前震、及び16日の本震と多くの大きな揺れが続けて発生した熊本地震。一連の地震での連続した震度7の観測は、現気象庁震度階級制度では初で、それだけ人びとに与える恐怖は大きかった。
戦国武将・加藤清正公の菩提寺として有名な熊本市本妙寺は、登録有形文化財の仁王門が被災し、現在も立ち入り禁止の状態となっている。コロナ禍がなければ修復のための募金活動が開始される予定だったという。また清正公の墓所となる浄池廟本殿へと続く石段「胸突雁木」の中央に並ぶ石灯籠は震災時にほとんどが崩れ落ちたが、昨年の夏に復旧した。しかし、境内の石垣や、塔頭寺院の規模が大きめの墓石などが崩れたままになっており、まだまだ爪痕が残っている。塔頭寺院住職によると、一般的な墓石は寺院負担で修復したものの、規模が大きい墓石を所有する檀徒と連絡がつかず手がつけられないという。
被害が大きかった益城町にあり、堂宇を失った道安寺は、未だ行政による区画整理の目処がつかず、再建が宙に浮いたままだ。また仮設住宅から復興住宅に入居できた檀信徒がいる一方で、道安寺のように区画整理が進まず、まだ家を建てられない檀信徒もいるという。竹本義隆住職は、「震災後から昨年くらいまでは、おおよその期限の提示がありましたが、それさえもなくなってしまいました。檀信徒の寺院再建への期待も大きいのですが…」と現状を話す。しかし、マイナスな話だけではない。道安寺では新しい檀徒が震災後にも増えているという。以前からの檀信徒と新しい檀信徒。互いにまだ見ぬ本堂の建立が、道安寺と益城町の新時代のシンボルとなる。