オピニオン

2020年4月1日

御首題と御朱印

ここ数年、御朱印収集が流行している。流行しているという表現もふさわしくない気がするが、テレビの旅番組でもタレントが寺院や神社を訪れ、参拝と共に朱印帳に御朱印を頂く様子が映し出される。
 当山は地方のそのまた地方で、これといった観光資源もない土地柄である。それでも、土日にはほぼ毎週、「御朱印をお願いします」と声をかけられる。
 朱印帳に御朱印をいただくというのは、本来、その寺社をお参りした証であると言う。寺院の場合で言えば、お堂にお祀りされている仏菩薩などを中央に墨書し、神社の場合は、神社名を記すことが多いように見受けられる。そして、右上に「奉拝」と入れ、当該寺院・神社を「参拝し奉りました」と証明し、左下に寺社名を記すという形式である。朱印は中央に押し、左下に寺社印、右上は押す場合と押さない場合があるようだ。
 御朱印はこの形が基本のようだ。しかし、必ずしもこれに従う必要もなく、全く独自の形式も散見する。見開きで凝った絵を書き入れるものもあり、また、寺社以外に城郭などの観光地でも御朱印を書くところがあったりと、人びとの御朱印収集意欲をますますかき立てているようだ。
 当山でも、町おこしの一環で始まった七福神廻りで「寿老尊(人)」をお祀りしているため、年三回のご開帳のときには、中央に「寿老尊」と墨書し、右上には「奉拝」と記す。まさしく参拝の証である。
 ところで日蓮宗には、御本尊を書写して授与するという日蓮聖人由来の伝統がある。日蓮聖人御真筆御本尊の授与書に見られるように、御本尊授与は、日蓮聖人以来脈々と継承されている信仰増進の源泉であり、誇るべき法華の信仰文化である。
 御首題は、この伝統に沿った最も要約された御本尊と考えられる。従って、参拝の証である御朱印とは、その成り立ちから言っても価値から言っても、全くの別ものと言わなければならない。実際にその辺を厳密に解釈して、朱印帳には御首題を書かないという信念を持っている人も多い。御首題と御朱印の決定的な違いからすれば自然な判断と言えよう。
 先日、当地の地方新聞の記者が『しもつけの御朱印』という連載記事取材のために来山した。当山は県内129番目だそうだ。その記者はよく勉強してきたと見えて、「日蓮宗のお寺さんは、朱印帳には御首題を揮毫しないんですよね」と。それに対して、「原則としてはその通りですが、私は朱印帳にも御首題を書き入れます」と答えた。
 言っていることが矛盾していると叱られそうだが、御首題と御朱印の違いを十分理解した上で、朱印帳であってもあえて御首題を書き入れるのだ。
 御首題帳の人には、信仰をますます深めてほしいと願って御首題を書き入れる。また、朱印帳の人には、当山の御本尊に合掌し祈るのであるから、そのご縁を大切にして朱印帳に御首題を書き入れる。
 ただ、その際に1つだけ注意すべきことがある。それは、右上に「奉拝」と書かないことだ。これを書いてしまうと参拝の証になってしまい、御首題が御朱印となってしまうからだ。「御朱印をお願いします」と来る人の朱印帳に御首題を書き入れることは、ささやかながら折伏布教となるのではないかと心密かに思っている。
 ちなみに当山では、右上に「但行礼拝」の朱印を押す。当のお参りの方のみならず、すべての人への敬いの心であんのんな社会をつくるために。
(論説委員・中井本秀)

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