2020年3月10日
■煙はご先祖さま?
■煙はご先祖さま?
私が暮らす地域では、春の雪解けまでは、お寺の位牌堂にある各家毎の仏壇型位牌壇に参拝する▼昨年の春彼岸のことだった。玄関の戸をガラガラッ「こんにちは!」とA君。続いて、供物や供花を持ったお父さん・お母さん、「いつもお世話さまです」とお祖父ちゃん・お祖母ちゃん。本堂の仏さまを拝む大人たちをよそに、駆けっこやでんぐり返し、太鼓も叩く。叱られたってヘッチャラ。けど、奥の位牌堂に入ったら…。立ち並ぶ仏壇を見上げると、その上の小窓から斜めに差し込む幽かな光。たち込める線香の煙が揺れて、思わずお母さんの腕にしがみついた。やがて、チーンと鈴を打ち鳴らしたお祖母ちゃんがゆっくりと唱え始めた南無妙法蓮華経。穏やかなお題目で、いつの間にか、気づけば、一緒に手を合わせていたA君▼「お上人さん。さっきね、煙がフワッて動いたよ。あれはご先祖さまかな?」「そうだね。A君のお参りが嬉しい、ありがとうって、ほっぺたをなでてくれたのかもね」「そうなの じゃ、僕、また、ご先祖さまに会いに来るよ!」と、今度は自分で鈴を鳴らし、ナムミョウホウレンゲキョウと唱えたA君。帰り際の本堂でも手を合わせると「お上人さん、またね!」と手を振り帰っていった▼今春のお彼岸には、透き通る声で少し大人びた南無妙法蓮華経が聞けることだろう。 (花)