オピニオン

2019年12月10日

お題目に自他彼此の心なし ―異体同心からノーサイドへ―

 今年の大きな話題の1つとして、ラグビーの第9回ワールドカップ大会が挙げられるだろう。アジアでの初めての開催となったこの大会。正直な話、私はそれほどの興味も抱かなければ期待もしていなかった。
 ラグビーは、野球やサッカーに較べれば、日本での人気は、それほど高くはない。その理由は、怪我する危険性の高い球技と思われているからではないだろうか。事実、その試合は球技と言うより、肉弾戦のように見える激しいもの。とてもスマートとは言えない気がする。ところが、観る度に興奮度がエスカレートするのがラグビーなのである。
 この大会に参加した日本のチームは、ベスト8に入ることを目標に掲げ、見事にその目標を達成し、日本中を歓ばせた。これによって一挙にラグビー熱が全国に湧き起こっている。今や子どもたちでさえ、あの変てこな楕円のボールを手にして喜々として遊んでいるのだ。いやはや人気というのは楕円のボールのごとく、どこへ、どのようにして飛ぶかは分からないものだなと驚かされる。
 いや、それ以上に驚かされたのは、日本チームを構成しているメンバーたちのこと。熱心なラグビーファンは別としても、一般の人なら、このメンバーを目にした時、これが本当に日本のチームなのだろうかと目を疑ったに違いない。国境や人種を超えて国際化が進んでいる現代とはいえ、これほど多種多様のメンバーを擁するスポーツ、競技は他にはないのではないかと思わされた。しかしながら、テレビで試合を観ているうちに、彼らこそはこれからの日本の歴史を創造するパワーの象徴ではないかと考えさせられるようになった。
 そんな中でも、ニュージーランド出身のリーチ・マイケル選手の活躍は特筆に値する。主将という立場を任された彼は、「1人はみんなのために、みんなは1人のために」というラグビーの基本精神を本にチームを統率し、ワンチームという生き方を披露してくれた。これを宗祖の言葉に置き換えるならば、異体同心と表現していいのではないだろうか。
 彼は、「お世話になった日本に、なんとしても恩返しがしたい」とみんなをまとめ、彼らは心を1つにして、試合開始に際しては、「君が代」を斉唱してくれたのである。そして試合が終われば、ノーサイドとの言葉どおり、敵、味方を越えて、お互いが抱き合い、健闘を称えあっていた。これは参加国すべてに共通するマナーのようだが、粗野どころか、紳士的な態度を身につけている選手たちには、畏敬の念さえ感じさせられた。洋の東西を問わず、ナショナリズムとグローバリズムがぶつかり合い、国際関係が緊迫しているこの時代、政治の世界にあっても、このようなフェアープレーの精神を持ってほしい。
 ノーサイドとは反対の意味で仏教には、我他彼此見という言葉がある。自分と他人とを区別する見解という意味だが、自他不二というのは、その区別を超えた絶対平等の境地を指す。仏の悟りの世界と言っていいだろう。死力を尽くしてプレーした選手たちには、そんな心の世界が広がっていたのではなかろうか。
 お題目の信仰は、怨親平等利益を本分とする。開経偈の、「もしは信、もしは謗、共に仏道を成ぜん」という言葉を噛み締めてほしい。
 敵も味方もなく、誰もが一丸となってトライする。ラグビーに学んだ信仰の道ではあった。
(論説委員・中村潤一)

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