オピニオン

2019年12月1日

普回向を唱える意義

先日テレビで、四国88ヵ所巡りのお遍路さんが、読経の後に回向を唱えているところを見た。40代と思われる2人の男性であった。
 「願わくはこの功徳を以て普く一切に及ぼし 我らと衆生と皆共に仏道を成ぜん」
 これは、『法華経』の『化城諭品』にある一文で、梵天王が大通智勝仏に向かって唱えた偈頌(詩)の一節だ。その意味するところは、読経などによってもたらされる功徳を、生きとし生けるものすべてに回向し、皆共に仏道が成就することを願うということで、普回向と呼ばれる。
 もちろん私たちにとっても、この普回向は基本的で重要なものであって、法要、読経等の際に唱えることが多い。
この普回向と対になる言葉として別回向がある。法事などで特定の霊位、たとえば自分の父母などに個別に回向することである。ただし、別回向には、可能な限り普回向を付加することが望ましいとされている。
ところで、仏教は本来、出家主義の個人宗教である。つまり、出家した釈尊が菩提樹下で個人的な悟りに到ったことが出発点であるから、元々は個人的な宗教経験の枠を越えるものではない。しかし、初転法輪以降、教えが説かれるようになると、次第に出家者集団が形成され、教団が成立する。すると今度は、その維持のためにも在家者との関わりが必須となる。出家者集団の宿命と言えるのかもしれない。在家者との関わりが重視される傾向が生まれると、次には徹底した自己犠牲の上に成り立つ菩薩思想が、慈悲を基として現れてくるのである。
 ここに仏教は、実践的には仏教本来の姿である自利と、宗教的社会性を持った利他の両面を持つことになった。
 こうして、後世において大乗仏教の特質の1つとされる利他行中心の教えが発達することになる。すなわち、自利行が進んでいって利他行に入るというように段階を踏むのではなく、徹底した利他行こそが自利をもたらすという考え方である。それを端的に表しているのが、伝教大師の言葉とされる「忘己利他」(己れを忘れて他を利する)である。自己犠牲も厭わない徹底した利他行は、菩薩行そのものであるから、それは自利行としても成り立つのだ。利他行は、「慈悲の極み」として位置づけられることになる。
 これに加えて法華経は、受持・読・誦・解説・書写の五種法師行を掲げ、法華経受持などが大きな功徳をもたらすという考え方を明快に示した。それこそが「如説修行 功徳甚多」(説の如くに修行せん、功徳甚だ多し)の意味するところだ。そして私たちにとっては、唱題も、読経に勝るとも劣らない大きな功徳を生み出す行なのである。
 ただし、この時点では、五種法師行や唱題のもたらす功徳は、たとえそれがどれほど大きなものであっても、それらの行を実践した人自身に備わるものであって、他者に及ぶ類いのものではない。つまり、利他行とはならないということだ。
 そこで重要な意味を持つことになるのが回向である。回向とは、大いなる功徳を回らして他者へ振り向けることを意味するのであるから、回向によって初めて、読経や唱題が利他行として意義づけられることになる。
 こうして、読経や唱題による功徳を普く一切に及ぼす普回向は、大乗仏教の根幹とも言うべき利他行に繋がる重要な一文となったのである。
大いなる功徳が普く一切に及ぶよう念じて読経や唱題に励み、併せて普回向を唱える意義を再認識してほしいと思う。
(論説委員・中井本秀)

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