論説

2019年9月20日号

過ぎし夏の苦い思い出

 酷暑多災の夏が過ぎ、秋彼岸を迎えているが、私には夏にまつわる悲しい思い出がある。「夏が来れば思い出す、はるかな尾瀬とおい空」という歌は、誰でも口ずさむことができる名曲だが、私にはこの歌を聞くたびに苦い思い出がよみがえる。
 今から半世紀も前の話で恐縮だが、大学4年目の夏休み、帰省中の高校時代の友人たちと近くの海岸に海水浴にでかけ、将来への希望を語りあいながら大学生活最後の夏休みを海辺で満喫していた。仲間のほとんどは卒業後の就職が内定していて、あとは半年後の卒業を待つばかりであった。
ひと泳ぎして海の家に入り昼食を注文して休んでいると、海岸で人騒ぎが聞こえる。何事だろうと駆け付けて見ると、そこには先ほどまで一緒に泳いでいた仲間の1人が横たえられていた。すぐに覚えたての人工呼吸と心マッサージを友人たちと必死に繰り返した。救急車と共に駆け付けた警察医は、時既に遅いことを告げ、その判断を受けて救急隊員も処置をするのを躊躇した。それでも私たちはあきらめきれず救急処置を続けていると、遠くから浜の砂に足を取られころびそうになりながら必死の形相で駆けてくる両親の姿が見えた。しかし、両親が到着した時にはすでに彼は帰らぬ人となっていた。大学卒業まで半年、晴れて社会人になって活躍するであろうわが子の姿を思い描いて夢を膨らませていた両親の期待は無残にも潰えた。そのしおれ切った姿が今でもありありと思い出される。その苦痛は想像を絶する。
今年の夏も、海や川や山で多くの命が失われた。毎年この季節に必ず報じられる多くの若い命が失われる悲しい事故の報道に、家族の悲痛な叫びが聞こえ、胸が痛む。
九横経に、寿命が尽きる前に人が横死する原因に9つあると説かれている。
1には、毒のある食べ物で命を失うこと。2には過食。3には日頃食べなれないものを食べること。4には消化不良。5には排泄がとどこおること。6には殺生・偸盗・邪婬・妄語・飲酒の五戒を疎かにすること。7には、邪悪なことを説く者に近づくこと。8には朝早くや夜更けに出歩くこと。9には、避けるべきことを避けないこと。たとえば、暴れている牛や馬に近付いたり、車が通る道端、工事現場や、酒に酔った人や狂犬など、避けて近付かないようにするべきところに敢えて近づいて命を失うこと、などである。
 経は、できるだけ行ないをつつしみ、定業として与えられた命を息災に暮らすように努めるべきであると説く。また、周囲にいる者の務めとして、これら9つの危険に近づかないように注意を払い、非業の死を避けるようにするべきであるとも説く。本人だけではなく、周囲の者が注意喚起すべきことにも触れているところが深い。
 理非分別のつく大人には自ら行動を律して命を守ることが自己責任であるが、子どもに対しては親を含めた周囲の者たちが気を配って命を守ることが必要である。危険な場所や危ない遊具等に近付かないように目を配ること、子どもが近付く可能性のある場所の危険を除去することなどである。
 もう1つ見逃されている大事な観点がある。それは、世の中には魑魅魍魎が跋扈しているということである。楽しみの世界で浮かれていると、跳梁跋扈する魑魅魍魎に足を掬われかねない。細心の注意で歩を進めなければならないと、子どもに限らず社会全体に警鐘を鳴らす役割が、私たちに課せられている。
(論説委員・柴田寛彦)

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2019年9月10日号

アマゾンの熱帯雨林は世界の財産

 アマゾンの熱帯雨林で火災が広がっている。予想以上な広がりにブラジルの大統領も消火に軍隊を派遣すると決断した。報道によると、火災は失火や自然発火ではないという。火災は、今年にはいってから約8ヵ月の間に7万5千件以上にも達し、1平方キロメートルにも及ぶ広さになってしまっているらしい。この広さは東京の面積の16倍に匹敵するほどだ。いかに広い範囲かがわかる。鎮火は容易ではない。
 アマゾンの熱帯雨林は地球上の酸素の2割を生み出している(アマゾン協力条約機構)。それほど我々の生存に、いたって重要な関わりがあるところだ。フランスのマクロン大統領は「国際的危機である」と言ったという。過日のG7の会議にも重要な議題として上げられ議論されている。
 アマゾンの熱帯雨林については、中学生の頃、地学クラブに所属していて、知識としてどんなに大切な存在かを教えられたのを憶えている。その広大な面積は550万平方㌔と日本の国土の約15倍もある。このアマゾンの熱帯雨林があるお陰で地球上に住む人間は生きることができるのだという。だから、このアマゾンの熱帯雨林は、国を越えて世界中の者が力を合わせて大切にして、守らねばならない、と担任の先生から教わった記憶がある。
 地球は、太陽の惑星として生まれて以来、不思議な宇宙の、理解しがたい仕組みの中で、特異な星として存在し、そこに生物が進化しながら生存し今に至っている。大自然の中にあるあらゆる複合的な物によって我々も生きられるのだということを、実感として知ることができる。だから、アマゾンの熱帯雨林が火災のために急激な変化をして、草原化してしまうようなことになると、人間どころか、あらゆる生態系が狂ってきて、とんでもない事態が起こることになるにちがいない。
 地球は宇宙の中のかけがえのないオアシスだと言われている。水があり、空気があり、周囲をオゾン層が覆い太陽からの赤外線を制御し、生物が生きられるような星になっている。地球は、太陽からほどよい距離に存在し、自転しながら公転して、自然環境が生物を発生させ進化させ、生存できるよう実にうまくできていて、今日のような地球を成り立たせているというわけである。それが、人間の仕業でせっかくの自然環境を破壊するようなことになれば、自分で自分の首を絞めるようなことにもなりかねない。
 報道によると、アマゾンの熱帯雨林の火災の拡大は、為政者によるとんでもない政策が後押しして起こったことではないかという。アマゾンはブラジルをはじめ7ヵ国にまたがって存在するが、約6割はブラジルである。そのブラジルでは焼き畑(ケイマダ)を進めていて、国策として産業発展に利用すべきであるという考えから、伐採が加速され焼き畑が奨励されて、開発業者がどんどん入り込んで、この始末となっているとのことである。これは由々しき大事である。熱帯雨林が減少していけば、気候にも変動が起こり、人間どころか、植物や動物や魚類、鳥類までその生存に多大な影響が及ぶことは必定であろう。
 世界の学者たちも、一斉にブラジルの為政者の考えを批判し、即刻変えるよう意見を述べている。アマゾンの熱帯雨林は、世界の貴重な財産であり生命の根源ともいうべき存在であることを、今一度しっかりと記憶に止めるべきであろう。
 令和初彼岸ももうすぐ。彼岸とは、安穏な世の中をこの世に実現させることである。
(論説委員・石川浩徳)

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2019年9月1日号

夏から秋へつなぐ

 「スマイル・シンデレラ」という可愛いことばと爽やかな笑顔が、猛暑と台風に恐々としていた8月初旬イギリスから届きました。弱冠20歳の渋野日向子プロが初めての海外遠征で、女子ゴルフのメジャー、全英女子オープンを笑顔と共に日本人として初めて制したのです。ゴルフ界にとってはものすごい快挙であり、しのぎを削る厳しい競技の中の笑顔が世界中のゴルフファンを魅了したのです。ことばは違っても笑顔は世界共通であることを証明しました。
 広島と長崎の原爆記念日の合間には小泉進次郎衆議院議員と滝川クリステルさんの結婚会見がまた日本中を湧かせ、おもてなしカップルの幸せいっぱいの笑顔は日本中の人たちを和ませました。
 勝者や結婚の一瞬の喜びにも、その影にある永年の家族や周囲やその関係の人びとの努力や協力があったことを忘れてはなりません。先人たちが何とか後世の人びとが幸せであってほしいと願い、
 精進してきたからこそ、それぞれの幸福が実現に近づいていくのです。私たちは自身の幸せはもちろん、社会や人類総ての人々が幸せになってほしいと思えばこそ、学問や仕事や信仰に励んでいるのではないのでしょうか。
 毎年、酷暑の8月には戦争と平和について考え、この幸せをつないで行くことこそが、今を生きる我々の使命と責任であるという事を誰もが思っているでしょう。しかし、一方では、戦争や歴史を引きずって自虐的に未来を悲観する人たちも少なくありません。過去の大事な歴史遺産をつないでいくのか、負の遺産に引きずられていくのか、今、日本人は大きな岐路に立たされています。
 科学技術の進歩により、快適な暮らしを得て、物質的な幸福感に浸っている私たちは、現実の恐怖を感知する能力が欠如しているとしか思えません。日本人の精神性は日本仏教が支えてきたことは確かです。難しい教義などではなく、日本の伝統的な行事や慣習を粛々と行うことで育んできたのです。しかし、生活様式の変化や伝統文化の軽視や宗教離れの加速がいよいよ問題になってきました。
 最近の悲惨な事件などの要因のひとつには、現代人がこの大切な日本人の魂をつなげなくなったことにもあると思うのです。
 文藝春秋8月号の記事によると日本で最も古い企業は、大阪の金剛組という社寺建築の会社で、何と、飛鳥時代から1400年以上続いているそうです。また、世界最古の宿としてギネスに認定されている慶雲館も飛鳥時代からで1300年以上の歴史があるそうです。しかも、この宿は山梨県の総本山身延山の奥、七面山の更に山奥の鄙びた西山温泉にあり、なぜそんな山奥の宿が続いているのか不思議ですが、それは、山岳仏教の修験者や信徒たちの修行の場所だったからに違いありません。最古の会社も宿も宗教に関係が深かったからこそ永い歴史をつないでくることができたのでしょう。この仏教が日本に定着し、先師たちによって進化しながらつないでこられた証なのです。この歴史と宗教こそが現代の日本人の生き方を形成してきたのです。
 しかし、日本の伝統や歴史を曲解し、独り相撲のように反日を叫ぶ隣国は正しく負の遺産を引きずっているとしか思えません。何事も引きずっていては前に進めません。過去を引きずって生きるより、つないで、つないで新しい時代へと踏み出した方がいいに決まっています。ところが、そうは問屋が卸さないところが悲しいかな我々凡夫であります。
 渋面でいやいや「ひきずる」より、世界共通の笑顔で「つなぐ」ことを心がけながら信仰の秋を迎えようではありませんか。(論説委員・岩永泰賢)

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