2019年8月10日
あるがままに
最近テレビのニュースを聞いていて、以前より随分口調が早いと感じるようになった。アナウンサーは1分に300文字読むという。一般的な会話は350文字だ。ということはコラム子の聴覚が衰えたからだろうか▼先日、ホテルでエレベーターに挟まれてしまった。よりによってわが身に起ころうとは想像だにしなかった。降りる人を待ち、乗り込んだ時に見事に左右の腕を体ごとはさまれた。ほんの少し痛かった。決して歳のせいで動きが鈍くなったわけではない。と、思いたい▼ある地方の街で人気作家の講演会があった。100席ほどの会場に10人余りしかいなかった。作家は不快そうな態度のまま話し続け、早々に会場から姿を消した。逆にある落語家は同じような状態のとき、懐からカメラを取り出して、壇上からお客さんをパッと撮って笑いを誘った。「この会はこれ以上少なくなることはないから記念に撮りました。これから一緒に増やしていきましょう」。これにはお客さんを笑わせただけでなく、主催者を泣かせた▼ありのままに捉えるということを、法華経は教える。現実をそのままに受けとめ、考え行動し相手の心を汲む。心運びの妙であろうか。河合隼雄氏は「生じてきたすべての事象をわがこととして引き受ける力」が大人の条件だという▼寛容性が失われつつあるいま、相手を受け入れる合掌の心がますます輝いてくる。(汲)