オピニオン

2019年8月1日

追善供養の強化月間

今年も、広島・長崎の原爆記念日と終戦記念日、そして月遅れのお盆の月に入る。毎年この月には、他の11ヵ月とは違う独特の空気感を感じていた。それは、肌にまとわりつくじっとりとした汗の感覚とともに、むせかえるような、しかし不思議と不快と感じない匂いを伴っている。水の張られた緑の田んぼを吹き渡るさわやかな風とともに、8月の31日間は、一貫して同じ空気感を醸しているように感じるものだ。
 もちろん僧侶としては、檀家を回って棚経をお勤めしなければならない。体力的には結構しんどいものであるが、個々のお宅での読経や唱題が周りに染み渡っていくように思える。
 個人的なことであるが、今年は家族の初盆でもあるから、なおさらに亡き人への思いが柔らかく大きく形作られ、お盆のお迎えを心待ちにしている自分に気づく。
 ところで、日蓮宗では、毎年終戦記念日である8月15日に、東京・千鳥ヶ淵の戦没者墓苑で、東京4宗務所を中心に法要を営み、軍人、民間人の区別なく、すべての戦没者に対して追善供養を執り行い、戦争のない恒久の世界平和を心から、そして強く祈ってきた。
 8月15日は棚経の最終日に当たるため、まず参列できないところであるが、宗門での役目上、棚経の予定をなんとかやりくりして、2年連続で参列することがあった。
 そこで目にしたものは、線香の煙がたなびく中で、厳しい残暑に汗をぬぐいながら、花を供え、一心に合掌する人びとの姿であった。その姿は次から次へと続き、途絶えることがない。酷暑であろうが、突然の大雨であろうが、そんなことは気にも留めず、延々と続く祈りの情景に深い感銘を受けたのである。戦後70年以上が経過して、戦没者のご遺族も高齢化し、戦争の記憶の希薄化が指摘されている現代において、残暑の戦没者墓苑を訪れる人の多さに感じ入ったのである。
 また、広島の原爆の日にも、平和記念公園での広島県宗務所主催の法要に参列させていただいたことがあった。早朝、6時半からの法要のため、前泊した岩国のホテルを暗い内に出発して、6時前には公園に着いていた。広島市主催の平和記念式典までにはだいぶ時間があるから、あまり人がいないだろうと思っていた。しかし、着いてみれば、すでに多くの人がお参りに来ており、線香の煙が公園一帯に漂っていたのである。早朝にもかかわらず非常に蒸し暑い日で、にじむ汗をぬぐいながの法要参列となった。
 手を合わせる人びとはそろって無言で黙々と歩く。その流れに乗って歩きながら、かえってそこに人びとの祈りの強さと深さを感じたところである。
 終戦記念日にせよ、原爆忌にせよ、すでに70年以上の星霜を経ているにもかかわらず、お参りをするご遺族の思いは色あせることがないのであろう。また、ここでも、明らかに戦後生まれと思われる人たちも多くお参りなさっており、回向供養のこころが世代間で引き継がれているのを見て取ったのである。
 こうして8月は、お盆月であると同時に、先の大戦で命を奪われた人びとへの供養によって醸し出される独特の雰囲気に包まれる。人それぞれに、縁ある人への追善供養の心を実現するための強化月間なのだ。
 また今年も、縁ある亡き人への思いのたけを祈りに込め、容赦ない日照り、突然の雷雨があろうとも、汗をぬぐいながら、法華経とお題目を思う存分ご供養申し上げよう。
(論説委員・中井本秀)

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