2019年2月10日
◆言を射る
「お元気で。さようなら」。月命日のお参りのあと、いつも聞く言葉だが、その日は違って聞こえた。90歳になる女性のお檀家さんのお別れの時の挨拶だ。その2つの言葉が妙に心に残った。自分も相手も来月は病気などして会えないかもしれない。本当に最後のお別れかもしれないと頭によぎった。あふれる情感が胸中を駆け巡る。その思いが互いの心を通わせる大切な言葉だと教えられたような気がした。いつも以上に丁寧に合掌し、感謝しつつ頭を下げた。「謝」という字は弓で言を射るようにしっかり届けるという意味に解したい▼風邪のせいか声の出し方が悪かったのか、突然声が出なくなった。数日続いたので病院に行った。看護師さんに「お葬式があるのに心配だ」と、何気なくいうと、少し気弱になっていると思われたのか「心を籠めるときっと伝わりますよ」と慰められた。いつもこちらが言っていることだ。が、心が軽くなったような気がする。檀信徒も相談に来る時にはこんな気持ちなのかと知った▼癒し、救いを感じるのはこのようなことも含まれよう。自分の心を汲んでくれた、認めてくれた、居場所を感じたなど。それらをどう汲み取り、与え、伝え続けていくか。常に心したいものだ▼〽家にいて 娘と会話 ラインにて(第一生命「サラリーマン川柳」)。というのではどんな声も心の底までは届くまい。(汲)