2018年10月10日
あかねさす紫野行標野行
あかねさす紫野行標野行 野守は見ずや 君が袖振る(額田王)。好きな万葉集の歌の1つだ。袖を振るというのは、当時は恋しい人の魂を自分のほうへ引き寄せるという恋の仕草であった。神の魂を奮い立たせ、呼び寄せるための儀式、「魂振り」からきているという。いわば「おいで、おいで」ということか▼手を横に振ると、「いってらっしゃい」となる。これも同じ意味合いで、手を振ることによって安全に旅ができるようにと祈ったのだという(知恵の森文庫『今さら他人には聞けない疑問650』)。因みに時代劇で出かけるときに火打石で切火をするのも同じ意味を持つ▼手を縦に振ると「手刀を切る」となる。相手に手のひらを見せることで、武器を持っていないことを示し、不安や緊張を与えないための行為といえる。相手の領域には入りませんよという意思表示といえる▼古来より口から出た言葉には現実にしようとする力が備わっていると考えられてきた。戦いに出る息子に、母親が言葉にする「いってらっしゃい」には「生きてらっしゃい(生きて帰れ)」という思いの丈が込められているとの説を聞いたことがある。母親の心からの願いを、ようやく絞り出した言葉と感じたい▼迎えるお会式には両手を合わせ、宗祖に「ありがとうございます」の思いを込めたお題目を、是非唱えてもらいたいものだ。(汲)