2017年12月20日
35歳で世を去った芥川龍之介。今年7月に
35歳で世を去った芥川龍之介。今年7月に没後90年を迎えた彼の作品に「竜」という短編がある▼奈良に都があった時代、ある男が心のうっぷんを晴らそうと悪戯心を起こして、猿沢の池の畔に高札を立てた。「三月三日この池から竜が昇る」。これを見た人たちの驚く様子をこっそり笑いものにしようというのである▼全くのでたらめであるにも関わらず、人々は驚きの中にもこれを信じて疑わず、瞬く間に噂は広まっていった。そしてついに迎えた三月三日。その日は貴賤を問わず、竜をひと目見ようという人であふれかえった。張本人の男は最初こそほくそ笑んでいたものの、そのうち自分でも大変なことが起こりそうな気がしてきて、いつの間にか周りの人たちと共に熱心に池の面を眺めるようになっていた。そしてなんと本当に竜が天に昇っていったというのである▼うそから出た真という言葉がある。しかし、信じることなくして物事は成就するものではない。誰もが信じることにより悪戯が真の出来事となったのである▼この一年を振り返り、気にかかるのは隣国のことだ。世界情勢を見れば、世界大戦のきっかけにもなりかねないという論者もいる。「竜」の話しではないが、万民が妙法蓮華経を信じ唱えて、争いのない平和な世界、誰もが悦びを享受できる世の中になることを祈るならば、それは必ず真の出来事となるに違いない。(直)