オピニオン

2017年12月10日

グローバリズムの復権を祈る

 年の瀬も迫り、あと20日で平成30年を迎える。平成もあと1年と少しで改元されることになった。
 天皇陛下の退位のご意思は、先般開かれた皇室会議で正式に確認され、御退位が平成31年4月30日、改元が5月1日に決まった。
 1つの時代が終わり、新しい時代が始まるのである。平成年間は、後世の歴史から、どういう時代であったと総括されるのであろうか。
本年は、西欧世界に、度重なるテロが起こり、市民が多く命を落とした。シリアで建国を宣言したISIL(イスラム国)と称されるイスラム過激派組織が各国でテロ事件を起こし、社会不安を高めた。
 世界的にナショナリズムの台頭が目立った。民主的グローバリズムという、世界が目指してきた普遍的理念が、後戻りをし始めたのである。
 イギリスは国民投票でEU離脱を決めた。シリアなどから入ってくる難民が、イギリス人の雇用を奪い、医療・年金・教育などの社会保障制度を食いつぶしているとの反移民感情が作用したとされている。
ドイツでは選挙があり、メルケル氏率いるキリスト教民主・社会同盟が第1党を守ったが、中東・アフリカからの難民受け入れを強く反対する右派政党が党勢を伸ばし、一気に第3党になった。
 オランダでは3月の選挙で極右の自由党が第2党になり、ここでもナショナリズムが勢力を伸ばしている。
 フランスでは中道・独立系のマクロン氏と極右政党自由党のルペン氏が決選投票を行い、マクロン氏が勝ったが、ルペン氏が3分の1の票を得た。
 ロシアのプーチン大統領やトルコのエルドアン大統領のような強権的ナショナリストの指導者が支持される傾向が世界に広まっている。
アメリカでは、共和党のトランプ氏が、大統領選に当選し、トランプ旋風を巻き起こしている。「アメリカ・ファースト」をモットーに、周囲の意見を余り聞かずに、政治を進めている。
就任後すぐイスラム圏7ヵ国出身者の入国を禁止する大統領令に署名した。大統領と意見が対立、いったん引き受けた重要ポストを辞任したり、引き受ける人がいなかったりで、政府の中枢がまだ固まっていない。
通商政策ではTPP(環太平洋経済連盟協定)からの離脱を表明、また地球温暖化対策のためのパリ協定離脱も
表明している。
 アメリカは、中国に次いで2酸化炭素排出量が多い国で、地球の温暖化を進めないために、重要な役割を果たすべき国なのであるが、トランプ氏は「米国第一」のもと、グローバルな立場を見失いつつある。
平成29年の国際問題では、何と言っても北朝鮮のミサイル発射と、核弾頭の実験(ことによったら水爆実験?)が大きく取り上げられるであろう。
 ICBM(大陸間弾道ミサイル)の大気圏を出た弾頭が、再び大気圏に突入しても破壊されない技術を完成させたようで、米国の基地のあるグアム島が射程距離に入っているらしい。何度か北海道の上空を横切って実験が行われたことで日本にも不安が広がった。
 大都市では防災無線をつかった「Jアラート」(全国瞬時警報システム)が作動し、都市部では何度か避難を求めるサイレンが鳴り響いた。
金正恩朝鮮労働党委員長の異母兄の金正男氏がマレーシアのクアラルンプールで暗殺されたり、側近が処刑されたという報道、庶民が大変抑圧された生活をしているという報道を目にすると、自国中心主義の怖さを感じるのである。
  法華経寿量品に「薬発し悶乱して地に宛転す」と有るが、人類何千年の歴史の中で見つけ出した、最大多数の最大幸福、差別のない社会の構築という良薬が、ナショナリズムという怖い薬に変じ、人びとを宛転させないように願いたい。
 来年こそグローバリズムが復権し、世界平和、万民和楽が実現することを祈りたい。(論説委員・丸茂湛祥)

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