オピニオン
2017年11月20日
うちわの風
暑さのぶり返したある日のこと、月回向に伺ったお宅でお経を読んでいると、後ろから柔らかい涼やかな風を感じた。お経が終り振り返ると、そのお宅の奥さんが、うちわでゆっくりと私をあおいでいてくださったのだ。
少し前までは日常的にあったように思う、そんな光景が、何とも懐かしいような、最近は感じることのなかった心地よい風を感じた。
暑ければ、スイッチ1つで、エアコンや扇風機が動き出す生活。うちわすら使うことはなくなってきた現代では感じられない、人のやさしさのこもった風である。夏の暑い昼下がり、孫の昼寝を見守るおばあさんが、孫のためにゆっくりゆっくりうちわを動かすような、そんな風。
お経の中に「風動出妙音」という言葉が出てくる。風が動いて周りの人々の心に妙なる音が響くという。周りに向かって、相手に向かって、そんな風を送り続けたい。
(愛知県尾張布教師会長・三大寺聡温)