オピニオン

2017年11月10日

待ち望まれたこの世での成仏

もともと仏教では、個人が成仏できるか否かは、ただひたすらにそのひと個人の精進努力(修行)の如何にかかっていた。仏教の開祖である釈尊も、当初は個人の修行だけで成仏されたと考えられていた。ところが釈尊の過去世における修行を描いた本生譚(ジャータカ)の探求を通して、釈尊が遥かな過去世においてスメーダという名の修行者(菩薩)であったとき、燃燈仏(ディーパンカラ)という名のブッダから未来世における成仏の予言(授記)を得ていたことを契機に、〝成仏するためには、先達のブッダより授記を得なければならない〟と考えられるようになった。このような考え方を「授記作仏」といい、以降、仏教における成仏理論の中心は、この授記作仏となった。
仏教には大きく分けて、「成仏を目指す・目指せる立派な乗り物(教え、歩み)」としての「大乗仏教」と、「成仏を目指さない・目指せない劣った乗り物」としての「小乗仏教」が存在する。仏教が「ブッダの説いた教え、歩み」であるとともに、「ブッダに成るための教え、歩み」であるならば、仏教は本来的に、全てが大乗仏教であったことになる。そうであるにも関わらず、なぜ小乗仏教が誕生してしまったのであろうか。その最大の理由は、『阿含経典』(いわゆる『小乗経典』)には、仏弟子に対する成仏の授記が示されていないことに求められる。舎利弗や摩訶迦葉に代表される仏弟子たちは、釈尊の弟子としてその声を聞いてはいても(声聞)、成仏できるとの授記を得ていないことから、個人の精進努力だけで到達できる最高の境地「阿羅漢」という位に留まらざるを得なかった。仏教徒たちが成仏するためには、彼らに成仏の授記を与える釈尊の導きがどうしても必要であった。大乗経典が誕生するに至った根本的理由は、この「成仏の授記を与えてくれる釈尊の導き」が切望されからに他ならない。
最初期の大乗経典を代表するものが『般若経』である。『般若経』では、布施・持戒・忍辱・精進・禅定・智慧という6つの徳目を完成(波羅蜜)させることを通して、万人が成仏できると説かれ、ここに全ての仏教徒は、「六波羅蜜の修行を通した成仏の授記」を得ることとなった。しかし、いかにそれが万人への授記とはいえ、「歴劫修行して六波羅蜜を完成させること」という、極めて難しい条件が付されており、実際には誰もが実践できるものではなかった。そのため、後続の『無量寿経』では、10回念仏するだけで死後は極楽世界へと輪廻転生(往生)し、そこで阿弥陀仏に導かれて成仏できる、との授記が与えられることとなった。『般若経』と比べるとき、十回念仏するだけというのは著しい易行ともいえるが、この世における成仏は放棄しなくてはならない。仏教徒は、「自分でも実践できる修行で、この世で成仏できるという授記」を待ち望んだ。そして満を持して登場してくるのが『法華経』なのである。
『法華経』はその第2章「方便品」において、万人が、自分に合った修行を実践することで、例外なく成仏できることを保証する。その中にはきちんと題目受持も入っている。第3章「譬喩品」以降、釈尊は舎利弗をはじめとする阿羅漢たちに次々と授記を与え、ついには第10章「法師品」において、この『法華経』を受持し、歓喜する者全員に対し、例外のない成仏の授記(総授記)を与えてくれている。『法華経』、そしてお題目の受持は、仏教史によっても確認される、成仏への大直道なのである。  (論説委員・鈴木隆泰)
(直道=仏道の悟りに到達するのに最も近い道のこと)

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