オピニオン

2017年10月1日

宮沢賢治の故郷を訪ねて

方十里 稗貫のみかも
稲熟れて み祭三日
そらはれわたる
この短歌は、宮沢賢治(1896~1933)が昭和8年9月21日、満37歳をもって死去する前日の、9月20日辞世の歌を半紙に墨書した2首の中の1首です。
彼の故郷は、今日の岩手県花巻市豊沢町ですが、ふるくは稗貫郡里川口村川口町と称しました。父は政次郎、母は同じ鍛冶町の出身のイチです。
この稗貫の人々の氏神さまは、鳥谷崎神社に祀られている天照皇大神・大国主命・豊玉姫命等をはじめとする六柱の神々です。この神社の祭礼が9月17・18・19日の3日間でありました。
病床にある賢治は、鳥谷崎神社の祭礼が盛大に行われていることを、近郷近在から集まる農家の人びとの声や、御輿の渡御、そして山車の練り歩きの中に強く感じ取ったのです。そのことを、自己が寄属する十里四方の稗貫の大地に稲がにわかに稔り、人びとの喜びがはじけるように、鳥谷崎神社の祭礼が3日間晴天のもとに奉行されたことを、短歌に記したのです。
言うまでもなく、祭礼の中心は御輿の渡御にあります。この祭礼では、御輿の中心は鳥谷崎神社のものだけではなく、それぞれの町で保存されている町々からくり出されるのです。ついで、奉納の舞が、神社の境内だけでなく、町の大通りにおいて、それぞれの地域の人々によって「神楽権現舞」や「鹿踊」の乱舞がなされるのです。
さらに、それぞれの町内では、故事や伝説や物語をもととした山車が、1ヵ月以上もかけて造られ、みごとな装飾がほどこされるのです。そして、灯りがともされると、町中を練り歩くことになります。
当然のこととして、これらの神事につきものは、屋台、露店、夜店がところせましと往還に構えられ、往来の人びとを魅き寄せていることです。
これらの祭りは、大地に生きる人びと、氏子の人びとに支えられていることは言うまでもありません。
賢治は19歳の4月、岩手大学農学部の前身である盛岡高等農林学校農学科に入学。この学校は明治35年(1902)、日本最初の農業専門学校として創立されたのです。賢治は関豊太郎教授のもと、土壌学を専攻。賢治の願いは、この大地が豊かになり、飢餓からの脱却にあつたと思われます。
たしかに、岩手県(南部藩)の歴史においては、江戸時代に限定しても、元禄や享保、文政や天保の時代に大きな飢饉があり、多くの餓死者があり、村人の逃散がみられたのです。また、賢治の生家のすぐ裏にある双葉町の浄土宗松庵寺の一隅(当時は参道)には、無縁となった人びとへの供養石が安置されています。
もちろん、これらの飢饉や災害は、江戸時代にとどまるものではありません。明治・大正・昭和の時代に入っても、飢饉に加えて、大地震や大津波等が襲来しているのです。
私は、このたび立正大学仏教学部主催の国内仏教文化研修旅行に参加し、賢治ゆかりの盛岡市、花巻市を訪れる機会を得、9月8日・9日・10日の花巻祭(鳥谷崎神社・花巻神社祭礼)に遭遇し、そのありさまを目のあたりにしました。
その体験を通して、賢治が死を迎えるに当たり、いかに故郷の人びと、さらに農家の人びとの真の幸福を願っていたのかを、あらためて感じたのです。
(論説委員・北川前肇)

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