オピニオン

2017年9月1日

「いのちのおはなし」

 太平洋戦争を実際に経験し、以来ずっと「いのち」と向き合って「いのち」について私たちに語り継いでくださった方が、また1人旅立たれた。聖路加国際病院名誉院長、文化勲章受章者の日野原重明先生である。
 105歳。長きにわたり現役の医師として、現場に拘った方である。園長である私が、幼稚園の子どもたちに「小さな虫にも野に咲く花にもみんなにもあるよ。目に見えないけれど、たった1つの1番大切なものってなあに?」という質問を切り出し「いのち」の話をするようになってから、ずっと拠り所にしている絵本の著者が日野原先生である。『いのちのおはなし』(講談社刊)は、「-95歳のわたしから10歳のきみたちへ-」と副題がつき、教室の子どもたちに、互いの心臓の音を聴診器で聴き合い、命についての気付きをみんなで考えていく授業を絵本にしてある。
 このあとがきに、「いのちとこころ」として、〝「いのち」は誰にも平等にあります。命を無駄にしないということは、時間を無駄にしないということです。人が生きていく中で、もう1つ大事なことは「こころ」です。お互いの手を差し伸べあって、一緒に生きていくこと。自分以外のことのために、自分の時間を使おうとすることです。「いのち」やいのちをどう使おうかと決める「こころ」は見えませんが、みえないものこそ大切にすべきです。私の時間は残り少なくなってきましたが、自分の時間を他の人のために使って精一杯生きたいと思います。〟と書いている。日野原先生は、戦争を語る人の中でもすでに当時成人しており、医師として戦火の現場で自分の時間を人を救うことに使っていた人なのだと思うと、訃報は残念でならないという思いと、信念を全うされたことに心から敬意を払いたい。
 終戦の年(昭和20年)11月の日本全国人口統計データで、(沖縄を除く)男女別世代ごとの人口ピラミッドを見ると、えぐり取られたような形が、20代30代の男性層に見られる。その形が示すのは、戦前戦後の急激な人口減で227万5000人と推定される。つまり、その世代のほとんどの男性が、戦争によって死亡したと読みとることができるのである。現代に置き換えて考えても、ほとんどの人が健康で、働き盛りで幼き子どもたちの父親たちが多く属す年齢層。その男性たちを喪った日本の悲しき事実がある。戦後この経験から、日野原先生たち残された同世代男性が、亡き人たちの志や無念を引き継ぎ、リーダーシップをもって日本を再生してくれたのだと思う。
 昨年、「老人が始めた戦争で死ぬのは若者」と題した特集を読んだ。今、日本が直面している外交政策で、戦争を知らないわがが国のリーダーは、時間を無駄に費やすことなく国民の声を聴き、自分の時間を他の人のために使って懸命に生きてくれているのだろうか? 今後も平和を維持するために、日本国憲法の根幹ともいえる大切な議論が行われる。私たちがたくさんの悲しい犠牲によってもたらすことができた平和を、どのように考えていくか私も自分のいのちを活かしたい。
 仏教は、合掌という所作で、感謝や敬意など見えないものを形にして表現をする。特にわが日蓮宗では「いのちに合掌」をスローガンに掲げ、「今、目の前にいるあなたを一番大切に敬います」という但行礼拝の精神を持って世界平和への働きかけを目指している。今読んでくださっている新聞を置いて、実際に合掌をしてみて下さい。合わせた右手と左手には、武器は持てないということを実感していただきたいから。ならぬことはならぬものなのである。
(論説委員・早﨑淳晃)

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今年の1月13日の御年頭会の日も晴天にめぐまれました。

日蓮聖人の新年初の月命日はいつも晴れます。

みなさま今年もお元気でがんばっていきましょう!

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