オピニオン

2017年7月10日

ことば(誓願)に宿る力

 インドには古来「真実のことばには願いを叶える不思議な力が宿る」という信仰がある。ここでいう「真実のことば」とは、別段〝神が宇宙を創った〟や〝煩悩を滅した涅槃の境地がある〟などという「宗教的真実」を指すのではない。まず最初に「誓い」を立てる。そしてその誓いを実現すると、最初の誓いのことばは「言ったとおりの、誓ったとおりのことば」になる。これを「真実のことば」と呼ぶのである。そのことばに宿る力の大小は、最初の誓いを実現することの難易度に比例する。たとえば非喫煙者が「私は今後タバコを吸わない」と誓ったとしても、それは極めて容易に実現できる誓いであるため、宿る力は限り無くゼロに近い。一方、もし植民地支配に苦しむ人々が「私たちは支配者に対して決して暴力で打ち返さない。しかし絶対に言うことを聞かない」という誓いを立て、それを実行しきれば、そのことばには莫大な量の力が宿ることになるだろう。大英帝国の植民地支配を受けていたかつてのインドの人びとが立てた誓いが、まさしくこれであった。マハートマー・ガーンディー師を精神的支柱とするインドの独立運動では、インドの人々は大英帝国に対する「非暴力・不服従」の誓いを立て、それを実現しきることで「植民地支配からの独立」という願いを叶える力を得ようとした。果たして、多くの犠牲を出しながらも、1947年にインドが独立したことは、何人も疑うことのできない歴史的事実である。
 この、インドに由来する「真実のことばに対する信仰」は、「仏教」という乗り物に載ってシルクロードを東進し、遥か彼方の日本にまで届いている。その代表例が「願掛け」である。「百度参り」や「水垢離(水行)」、そして「茶断ち」のように特定の飲食物を断つ「断ち物」も、元を質せばインド起源の「真実のことばに対する信仰」に遡れる。中でも、春日局による「薬断ち」は有名であろう。徳川3代将軍家光の乳母であった彼女は、家光が大病を患った際に「薬断ち」の誓いを立て、それを一生守りきった。自らが晩年病に伏せった折も、服薬を決して受け入れず、そのまま命終していったという。その行動の裏には、「もし私がここで薬を飲んでしまったら、家光さまを守護している力が消えてしまう」という、彼女の命懸けの思いがあったのである。
 先ほど「仏教という乗り物に載って」と述べたが、実は仏教は単に乗り物になっただけではなく、自らもこの信仰を取り込んでいる。それが「誓願」である。たとえば阿弥陀仏はかつて法蔵という名の修行者であったとき、48(梵本では47)の誓願を立て、それらを全て実行しきって得た力によって、ついには仏に成ったと伝えられている。また、お勤めや法要の際に必ずお唱えする〝衆生無辺誓願度、煩悩無数誓願断、法門無尽誓願知、仏道無上誓願成〟という「四弘誓願」は、仏教における代表的な誓願となっている。そして私たち日蓮宗の人間には、何よりも大切な誓願がある。それは得度式や入信式で立てられる、お題目を「今身より仏身に至るまでよく持ち奉る(南無妙法蓮華経を、今から自分が仏に成るまでずっと持ち続けます)」という誓いである。「私たちは何があっても南無妙法蓮華経の信仰を離しません。私たちは南無妙法蓮華経という光明を、身にも心にも常に灯し続けます」との誓いのもとでお題目をお唱えするとき、私たちは私たちを成仏へと導いてくれる強大な真実のことばの力を得つつあるのである。
(論説委員・鈴木隆泰)

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