オピニオン

2017年6月1日

賢治のさまざまな側面の根底

宮沢賢治が昭和8年(1933)9月21日、今日の岩手県花巻市豊沢町において、数えの38歳の生涯を閉じて、今年85年忌を迎えます。賢治を詩人であり、童話作家と見なすのであれば、文学作品を観賞し、評論を加えることが、最も適した評価方法でありましょう。けれども、38年の生涯は、「文学者宮沢賢治」という枠では、けっして捉えたことにならないように思うのです。また、賢治の万華鏡のような輝きをもった魅力を語ったことにもならないと思うのです。
たとえば、文学者以外の側面をたずねてみますと、賢治は旧制盛岡中学校卒業後、盛岡高等農林学校(現・岩手大学農学部)へと進み、また関豊太郎教授の指導を受けています。そして、しばしば教授とともに地質調査に出向いています。それらの研究論文は、今日も岩手大学農学部の農業教育資料館に保存されています。そのことからも、賢治は化学者として地質学、土壌学の才能が豊かであったことが知られます。
幼少年の頃には、彼が育った花巻の豊沢川や北上川の岩石などに興味をもち、のちに彼が地元の教師時代、北上川の西岸の地層がイギリスのドーバー海峡と同じであったことから「イギリス海岸」と名づけていることは有名です。そして、彼の地質学や肥料学等の才能は、地元の稗貫郡の農地研究調査へと展開し、賢治が死去する前日、すなわち9月20日の夕刻(夜7時頃)、農家の人が肥料の相談に訪問したことで、病気を押して1時間ほど対応していることからも、賢治は自己の才能を化他行へと直結させているのです。
このように、賢治の化学者としての地質学の一端を垣間見ても、広くて深いものがありますから、この立場は地球からさらに銀河系の宇宙へと連関していることを知るのです。
以上のことから、賢治には、信仰に生きる面、教師として豊かな人物を育てようとする面、化学者として周囲の人びとに奉仕する面、芸術と日常生活とを融合し、日々の生活が求道の日々であるという菩薩道を実践する面、そして個々人の幸福と世界全体の幸福と乖離することのない安穏なる世界を目指す理想主義者の面が見られるのです。
ところで、小学校の時代から「雨ニモマケズ」や『風の又三郎』などの作品に接してきた私は、今日も彼の生き方をたずねつつありますが、その中で賢治の自制心の強さに驚きを感じるのです。賢治は、昭和6年(1931)9月20日、発病し、2通の遺書を認めています。その一節に、自己がいかに慢心(我慢)に支配されていたかを謝罪しています。また『雨ニモマケズ手帳』には、賢治が国柱会の理事であった高知尾智耀氏のすすめで、「法華文学の創作」に専心することを記した中で、「名ヲアラハサズ、報ヲウケズ、貢高ノ心ヲ離レ」と記しています。つまり、賢治の文学活動の根底には、自己の功名心や名誉欲を満たすことなく、また賞賛や報酬を求めることなく、さらに、貢高の心という思いあがった心から離れることを目指しているのです。
今日、私たちが理想を語り、また未来への道を語る場合、ともすれば、その中に我欲を潜ませ、名誉欲を投入しがちです。けれども、あらためて日蓮聖人の61年の生涯をたずね、近くは賢治の生き方に学ぶとき、仏法への帰依がその根底に存していることに、あらためて気づかされるのです。
(論説委員・北川前肇)

illust-ronsetsu

side-niceshot-ttl

写真 2023-01-13 9 02 09

新年のご挨拶。

過去の写真を見る

全国の通信記事

  • 北海道教区
  • 東北教区
  • 北陸教区
  • 北関東教区
  • 北関東教区
  • 千葉教区
  • 京浜教区
  • 山静教区
  • 中部教区
  • 近畿教区
  • 中四国教区
  • 九州教区

ご覧になりたい
教区をクリック
してください

side-report-area01 side-report-area02 side-report-area03 side-report-area04 side-report-area05 side-report-area06 side-report-area07 side-report-area08 side-report-area09 side-report-area10 side-report-area11_off side-report-area12
ひとくち説法
論説
鬼面仏心
購読案内

信行品揃ってます!

日蓮宗新聞社の
ウェブショップ

ウェブショップ
">天野喜孝作 法華経画 グッズショップ
">取扱品目録
日蓮宗のお店のご案内
">電子版日蓮宗新聞試読のご登録
">電子版日蓮宗新聞のご登録
日蓮宗新聞・教誌「正法」電子書籍 試読・購入はこちら

書籍の取り扱い

前へ 次へ
  • 名句で読む「立正安国論」

    中尾堯著
    日蓮宗新聞社
    定価 1,365円

  • 日蓮聖人―その生涯と教え―

    日蓮宗新聞社編
    日蓮宗新聞社
    定価 826円+税

書評
正法
side-bnr07
side-bnr07