オピニオン

2017年5月1日

教育の質を見透かすのは心の目

「おのづからよこしまに降る雨はあらじ 風こそ夜の窓をうつらめ」(『三沢御房御返事』)
日蓮聖人が詠まれた和歌に曲をつけた歌が、「おのずから」という曲目で仏教讃歌集にある。当幼稚園の保護者が集う会に、強制的ではないが皆で合唱することにしている。地面に向けて真っ直ぐ降るはずの雨が、横降りに夜の窓を打つのは、風が吹いているからである。これは、今ここに見えている状況や姿には、さまざまな要因が関係していることを説いている歌と解釈している。例えば、子どもが泣いている姿には不安などの理由があることや、怒りや憎しみに満ちた姿の裏に悲しみがあるのかもしれない。受容しながら本質を見抜き、解決の道筋を探ろうという子育てにおいて大切な大人の姿勢を、歌いながら保護者自身が気付いてくれることを祈っているからである。
昭和18年の初版以来200以上の国と地域の言葉に翻訳されている不朽の名作『星の王子さま』の冒頭に子ども(王子さま)が描いた帽子が描かれているが、大人はこれを見たままの帽子でそれ以外の何でもないと言って取り合ってくれない。しかし、実は、うわばみ(大蛇)がぞうを飲み込んだ姿ということを子どもが明かす章では、大人の思い込みを風刺的に捉え、「目に見えないものの本質を、心の目で見ることが大切である」と私たちに語りかける。ともすると大人は表面の体裁を価値観の最優先に挙げ、それを評価してしまう嫌いがあることを胸に留めなければならない。だとしたら、毅然とし統括のとれた子どもの姿の裏に、抑圧された子どもの心は潜んではいないだろうか? と問い直したい。
森友学園の問題が、ニュースなどの報道で取り上げられたのは2月初旬であった。幼稚園、学校生活の中で、積み重ねてきた1年という節があり、この時期は卒園、入園を意識する頃である。私立学校であることから入学、入園の選択は、ほとんどの保護者に委ねられるとはいえ、報道されるなか当事者たちの心もちはいかばかりであったかと察する。
教育勅語や運動会に政治的な発言を、子どもにさせる幼稚園が存在していたことを、長く幼児教育の現場にいた私は、初めて知ることとなった。これは、自分自身が無知であったことへの反省も含めて、驚愕した事件である。教育勅語は明治23年、『大日本帝国憲法』が施行された年に発布された。親孝行など臣民が守るべき徳目を列挙する一方で、「万一危急の大事が起こったならば、大義に基づいて勇気をふるい一身をささげて皇室国家のためにつくせ」と記される。忠君と国家への奉仕を求めるこれは、昭和23年排除と失効の確認が決議されている。
森友学園サイドは、その後さまざまな世論を受けてであろうか経営者が変わり、教育方針と内容の見直しが伝えられている。しかし、政治的な背景も含め今後もその動向は着目すべきである。教育基本法には、教育の目的として第1条に「教育は、人格の完成を目指し、平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質を備えた心身ともに、健康な国民の育成を期しておこなわれなければならない」とある。森友学園が報道されるまでの在園期間は、首相夫人や関係する多くの政治家に好評価された園という満足感を抱いていたであろう大人たちが、当時の子どもの姿をしっかり見つめ、うわばみがゾウを飲み込んでいる様子を見透かすような心の目を持っていたならば、弱者である子ども達が、傷つくことなく幼児期を過ごせたのにと非常に残念でならない。
(論説委員・早﨑淳晃)

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