オピニオン

2017年3月10日

覚りに向けての歩み

キリスト教をはじめとする一神教と仏教との違いの第一は、「その宗教における究極の価値と人間との関係」であろう。一神教において究極的価値あるものは「神(創造主)」であり、仏教では「仏陀・覚り(涅槃、諸法の実相)」である。一神教における神は唯一の創造者として万物の上に君臨しており、「人間は絶対に神にはなれない」という点において、両者の関係は永遠に断絶している。ところが仏教(特に大乗仏教)の場合、「人間は覚りを得ることで仏陀になれる」という立場に立っており、一神教との差違が際立っている。仏教が「仏陀の教え」であると同時に「仏陀になるための教え」と言われる所以もここにある。
一神教と仏教との違いの第二としては、「聖典と真理との関係」が挙げられる。「初めに言があった。言は神と共にあった。言は神であった」(『新約聖書』「ヨハネによる福音書」一.一)からも分かるように、一神教における聖典は「神のことば」であるのみならず、「神(=真理)」と同一視され絶対視されている。ところが仏教における「仏陀のことば」(仏典、経典)は、真理とは同一視されないのである。その証左の一つとして、釈尊が今生で敢えて成道を示現された後に、〝自分の証得した真理を説いても理解されない〟との理由で、数週間に渡って沈黙し続けられたことが挙げられる。成仏・涅槃という境地は、独り釈尊のみが証得された内的体験である。その当時、同じ体験をして仏となっていた者がいなかったため、自らの体験をことばに出して他者に伝えることが、釈尊にはどうしてもできなかったのである。仏の体験した境地(諸法の実相)は、同じ体験をした仏同士でしか共有できない。このことを『法華経』は、「唯仏与仏乃能究尽諸法実相(ただ仏同士のみが、諸法の実相を究め尽くしている)」と教えている。
もし釈尊がそのまま沈黙を守り続けていたとしたら、この世に「仏教」という宗教が誕生することはなかったであろう。ところが釈尊は、数週間にわたる沈黙と葛藤の後、遂に衆生に対して説法することを決意された。そして鹿野苑における、五比丘に対する初めての説法「初転法輪」へと連なっていくのである。ただし、いかに釈尊が説法を決意されたとはいえ、釈尊は依然として「自らが証得した真理、諸法の実相」を、衆生に対してことばで説明する術は持たれていなかった。では、真理を伝える術を持たれていないにも拘わらず、なぜ釈尊は説法を決意されたのだろうか。それは、「真理を伝える」ということを断念し、「人々を真理へと導く手段を講じよう」と思いを新たにされたからに他ならない。だからこそ、初転法輪で真っ先に説かれたのが、覚りに向けての歩みである中道(八正道)だったのである。
初転法輪以降、入滅に到るまで、釈尊は多くの教えをお説きになった。それらが「仏陀のことば」として、後代に経典として編み上げられていったのである。ときに「八万四千の法門」とも呼ばれる膨大な経典群は、古来「諸経の王」と評される『法華経』をはじめとして、その全てが私たちを覚り・諸法の実相へと導くために説かれたものであって、仏教における真理そのものではない。私たちは経典の教えに導かれ、自らが真理へと歩んでいくのである。しかも、諸経の王たる『法華経』のエッセンスは、お題目の七文字に具わっているとお祖師さまはお教え下さった。私たちはお題目をお唱えするときに、間違いなく覚りへと歩ませていただいているのである。(論説委員・鈴木隆泰)

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