論説

2017年2月20日号

宗教は人を幸せにするためにある

永年、タイガーマスクを名乗って経済的に困難な家庭の子どもたちにランドセルを送り続けていた河村正剛さん(43)が実名で名乗り出た。
本物のタイガーマスクが出場するレスリングのリング上に立った河村さんは「子どもたちはいじめられるために生まれてきたのではありません。抱きしめられるために生まれてきたのです」という素晴らしい言葉を私たちに向けて発信した。最近まれに見る感激する場面だった。親が子どもを虐待したり、死に至るような酷いいじめが友人同士だけでなく教員によって行われたり、という報道が続く中で涙が出るほど嬉しかった。
自身が主宰するNGOが、長い間の外国での活動から国内に目を向け始めたのも、そうした世相が看過できなくなったからである。昨年秋には活動の手始めに静岡大学管弦楽団の学生50人の協力を得て孤児院を訪れ、慰問演奏会を開催したのだが、そこで生活していたのは孤児ではなく、家庭内暴力から避難してきた子どもたちだと知った。
そこには、まだ5歳にもならない幼児もいた。学生たちの配慮で選曲されたディズニー音楽に大喜びしていたが、その幼児を膝に載せていたのは同じ境遇にある年長の少女たちだ。優しい母親の腕の中で聞いていたならもっと幸せだっただろう。
こんなにかわいい幼児たちまでもが家庭内暴力の犠牲になっているのが日本の現実だ。それを知った学生たちにとっては、意義深い活動だったに違いない。彼らの多くが教育学部の学生で教員を目指しているからだ。
河村さんは、活動をこれからも続けると仰っていた。この報道をきっかけに全国で第2、第3のタイガーマスクが出現するに違いない。心が晴れる思いだ。
このランドセルについては本紙の「鬼面仏心」欄にも書かせていただいたが、高価な革製のものにする理由が分からない。満開の桜の下を真新しいランドセルを背負って学校に通う新入生の姿はもはや定番ではない。貧富の差が拡大した今、推定25%の家庭にとっては大きな負担になっているはずだ。新しいランドセルが買えないために入学式に出たくないという新入生もいると聞いた。簡単なリュックサックのようなものですますこともできるはずだ。
服装も負担が大きい。すべての小中学生が制服を着用するようになれば、兄や姉が着たものでも使える。ファッションを競い合うこともない。毎日同じ服を着ているといじめられることもなくなる。商業の活性化による経済成長が大切なのは分かるが、子どもたちを犠牲にしていいとは思えない。
寺の門前を、登校時刻ぎりぎりになって学校に向かう小学生がいることに気づいた。頭を下げ、暗い表情のまま通り過ぎようとしているのが気になって「おはよう」と声をかけた。すると、下を向いていた彼がハッとした表情で顔を上げ、大きな声で返事をしたのだ。彼の目は輝いていた。学校で嫌なことでもあるのだろうが、その一瞬はきっと幸せなのだろうと思い、会うたびに声をかけることにしている。これを道行く人々が皆で始めたらどうだろうか。世の中は良い人たちばかりなのだと安心するに違いない。
宗教は人を幸せにするためにこそあるべきだ。そのために金品はいらない。全ての大人が子どもたちを優しく見守ってあげられる社会こそが仏国土ではないのか。空題目ではいけない。
(論説委員・伊藤佳通)

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2017年2月10日号

高齢者、75歳から

■はじめに
一般的に65歳以上とされている高齢者の定義について、高齢問題の研究者らでつくる日本老年学会と日本老年医学会は1月5日、75歳以上とすべきだとする提言を発表した。65~74歳は「心身とも元気な人が多く、高齢者とするのは時代に合わない」として、新たに「准高齢者」と位置づけられた。
■高齢ドライバー
同9日付け朝日新聞「ひととき」欄に73歳の主婦の「駐車場で染みた親切」という一文が掲載されていた。そこに運転にまごついたために周囲に迷惑を掛けてしまった自身の体験が綴られていたが、この一文は「近頃、高齢ドライバーは肩身が狭い」で始まる。
機械で料金を精算する市営の駐車場を出ようとしたところ、財布には機械では使えない5千円札しかなかったというのだ。あわててバックしようと思ったが、すでに後続車が後ろに。結局、後ろの人に事情を話してお金を借りて精算。
優しく手を差し伸べてくれた女性は熱を出した子どもを保育園に迎えに行くため急いでいたようだ。筆記用具を持っていなかったので、連絡先を聞くこともできず借金も返せず。後日お礼を言うこともできない。支払い用の千円札を用意し忘れたこと、その後の混乱した対応を反省しているが、高齢に起因することなのだろうか。
■准高齢者
65~74歳は、今までは「前期高齢者」とされていた。仕事やボランティアなど社会に参加しながら、病気の予防に取り組み高齢期に備えるという意味で、これからは「准高齢者」に区分、単に社会に支えられる側から、支える側面も捉え直すことで、明るく活力ある高齢化社会づくりにつながるとしている。
一方、現在、日本の平均寿命は83・7歳。世界保健機関(WHO)によると、世界全体の平均寿命は71・4歳で、日本は20年以上連続で世界首位を保っているという。
でも日本人の自殺率は先進国の中では最高で、高齢者のそれは一段高いとも発表されていて考えさせられる。
■後期高齢者
昨年の総務省の推計によると、65歳以上は約3400万人で人口の約27%。高齢者を75歳以上とした場合は約13%とその半分になるという。
日本の国勢調査ではかつて、60歳以上を「老年人口」としていたが、昭和40年(1965)以降は65歳以上となった。いわゆる老人の人口増は基礎年金の支給開始年齢原則65歳や、介護保険のサービス65歳以上などの社会保障制度にも大きく影響を及ぼしている。
ともあれ、私もこの2月20日で満77歳の喜寿。後期高齢者医療制度の対象者である。女優の八千草薫さん(85)の昔からのファンだが、彼女の座右の銘「いつも楽しく、どんなことも楽しく!」をこれからのモットーとしたい。
(論説委員・星光喩)

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2017年2月1日号

釈尊の涅槃と日蓮聖人のご降誕

「平成」という元号も、昭和64(1989)年1月8日の改元から、29年目を迎え、睦月(1月)から、如月(2月)へと月が移りゆきました。愚者として、過ぎ去った時間に思いをはせると、日々の時間の流れの速さに、唖然とします。そして馬齢を重ねたことへの反省とともに、いかに多くの方々のめぐみを、受けてきたかを感じ、そのご恩に報いることのできない非力さを痛感しています。
ところで、過ぎ去った時間の流れの速さをおぼえ、移りやすきこの世の無常を痛感させられるいっぽうで、時間に対する認識の変化を感じるのです。
今から、およそ2500年以前にインドに誕生され、80年のご生涯を人々の教化に尽くされたゴータマ・ブッダ(お釈迦さま・釈尊)の存在や、日本の鎌倉時代に安房国(千葉県)に誕生され、釈尊の最上の教えである『法華経』の救いを、身をもって実践され、人々に南無妙法蓮華経の大白法を弘められた日蓮聖人(1222―82)の全生涯が、より身近に感じられるようになったことです。
如月の15日は、釈尊がインドのクシナガラ(拘尸那掲羅)において、80歳の生涯を終えられた「涅槃会」に当たります。また翌16日は、日蓮聖人の「降誕会」です。
釈尊のご入滅のありさまは、『ブッダ最後の旅―大パリニッバーナ経』(中村元訳・岩波文庫)に詳しく説かれています。また、仏弟子たちの悲しみのありさまは、およそ1300年以前に造られました奈良法隆寺の五重塔の基壇の北面に収められている塑像群(国宝)に、みごとに表現されています。
さらに、日本の絵画史上、抜群の存在感を示している長谷川等伯(1539―1610)の描いた「仏涅槃図」(滝谷妙成寺蔵・京都本法寺蔵)は、驚嘆すべき作品であります。
わが日蓮聖人は、釈尊のご入滅の悲しみを、『祈祷鈔』につぎのように描写されています。
「み仏が満80歳を迎えられた2月15日の午前五時ころ、ご入滅になられるとの知らせが世界中にとどろきわたります。そこで、東インドコーサラ国の舎衛国の倶尸那城の跋提河(アジラバティー河・現在のガンダギ河)の沙羅林へと、生きとし生ける52類の生きものたちが雲集します。かれらは、釈尊に対して最後の種々の供養物をささげ、そして、かれらの悲しみの声が響きわたったのです。一切の人々にとっての宝の橋が折れて落ちようとしています。一切の人々にとって大いなる智慧の眼が抜けようとしています。生きとし生ける人々の父母であり、主君であり、導いてくださる大いなる師匠であるみ仏が死を迎えようとされています」(取意・現代語訳・昭和定本678頁)
このような悲しみの声が世界に響きわたりますと、み仏との死別の悲しみに、身の毛が立ち、涙を流すだけでなく、みずからの頭をたたき、胸を押さえ、人々が声をおしまず叫び悲しんだことで、血の涙、血の汗がクシナガラの街に、大雨よりも激しく降りそそぎ、大河より多く流れたというのです。
日蓮聖人は、釈尊のご入滅を当時の時代観のもと2千余年の末世のはじめと認識され、「白法隠没」(正しい教えが隠れてしまう)の時代ののち、末法の人々を救済する「大白法」が留め置かれていることを、身命をかけて私たちに示してくださっているのです。ここに、日蓮聖人のご誕生の意義を強く感じるのです。 (論説委員・北川前肇)

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