2017年1月10日
いつ終わるともわからない苦しみ、福島県浪江町。
いつ終わるともわからない苦しみ、福島県浪江町。原発事故以来、住民が避難生活を余儀なくされてから5年目になった。家を奪われ、あるいは家があっても戻ることはできず、家財道具や思い出の写真も何もかも持ち出せない。住宅がどんどん朽ちていくのを見ているだけの悲しみ。田畑も荒れ放題だ。離散せざるを得なかった家族もいる。原発は、とんでもない結果を残した。
新しい電力エネルギーとして原発を採用することには、当初から賛否両論があった。日本の発展のために、理想のエネルギーとして原子力発電は欠かせないと政府は喧伝した。科学者の中にはもっと慎重にとの声もあったが、「万々が一、災害が起きた場合にも、国民の皆さまに心配をかけないようにしよう。原子炉の設置者に責任を全部集中してしまう。つまり責任が分散しないように、発電会社とか研究所とかそこへ押しかけて行けば、そこが全部責任を取る(中曽根康弘元首相の科学技術庁長官当時の発言)」と言って、原子力発電所は日本各地に建造されていった。しかし、この原則は当事者である東電の経営危機によって機能していないと言われている。
福島原発は、大地震と津波によって、甚大な被害をもたらした。一時すべての原発が止まり、1号・2号・3号とも廃炉にするため処理作業が行われているが、核燃料デブリ(原子炉内の事故で、炉心が過熱し、溶融した核燃料や被覆管および原子炉構造物などが、冷えて固まったもの)の一片たりとも取り出せていないのが現状だ。その上、無人化した町は野生動物の住処となり、田や畑はその面影すらなく、雑木と草が生い茂っている。
事故処理の費用も大きな問題である。NHKの調査によると、7千人の作業者が1人1日2万円で従事しており、一日当たり1億4千万円かかっていて、4年間で2兆5千万円が支出されている。また、廃炉の費用が2兆円、除染の費用が4兆8千億円、16万人もの被害者への賠償金が6兆4千万となり、今までに支払われた費用は、合計で13兆3千億円となっている。すべて私たちが支払っている電気料金から流用するのであるが、それは電気料金の値上げによってまかなわれ、国が肩代わりすると今度は国民の税金で支払われることになる。しかもこれらの費用はさらに増え続けていって、廃炉作業が続く今後40年は終わらないだろうともいわれている。原発事故後に生まれた次世代の国民にまでツケが回ってくる勘定だ。
他の原子力発電所も問題だ。国家プロジェクトとして始まった再処理高速増殖炉「もんじゅ」も事故続きで、1995年にナトリウム漏れで停止して以来使われていないが、1日当たり5500万円もの費用がかかっている。これを廃炉にして「実証炉」という新しい原発を開発する方針を打ち出しているが、設置に1兆5千万円かかるという。
筆者は、原発に関して過去何度も警鐘を鳴らしてきたが、このような状況に至って実に残念に思っている。
原発は、島国日本を取り囲むように海岸に沿って設置されている。地震大国の日本である。津波の被害も憂慮される。これからは、再生可能なクリーンで安全なエネルギーの開発に舵を切ってほしいと切に望んでいる。
(論説委員・石川浩徳)