2016年12月1日
障害への偏見なき社会に向けて
今年のリオ五輪は、治安上の問題などからも出場を辞退する選手もみられたが、大きな混乱もなく無事に閉幕を迎えたことはなによりであった。また次期五輪の開催が東京ということもあり、新聞やテレビ報道などもこれまでになく盛り上がっていたようにも見受けられた。
また五輪後のパラリンピック報道も従来とは異なり、詳細かつ丁寧な報道であった。実際これにより多くの人びとが、パラリンピックの競技が実に多くの種目にわたることに気付かされ、連日の報道により参加選手のまさにアスリートとしての輝く姿に感動したのである。
このような報道に対して、一部には、いわゆる「障害者の感動話」に仕立てているとの批判もあるが、しかし今回の報道はこれまでになく障害者スポーツについて、より一層の理解を深めたことは事実であろう。
近年、障害あるいは障害者について考えさせられることが多くある。今年7月に相模原市の障害者施設で起きた殺傷事件では、容疑者の男は逮捕後も障害者を貶める発言を繰り返していた。これは障害を持つ弱者が標的となった悲惨な事件であり、この容疑者の障害者を蔑むことばは、どのような理由があろうとも容認できるものではない。しかしこのような障害者を巡る偏見や差別は、未だ多くの場面で散見されるのも事実である。
日蓮宗では昭和56年宗祖日蓮聖人七百遠忌御正当の年に「社会福祉法人立正福祉会」を設立、認可されている。この組織は日蓮宗の全国社会教化事業協会連合会によって、日蓮宗の社会教化事業の振興と児童の健全育成を図るために設立されたもので、現在全国の日蓮宗寺院に家庭児童相談室を開設し、多岐にわたる相談に対応している。
この立正福祉会が、新規事業として本年6月より「たちばな子どもの発達教室・たっち」を横浜市鶴見区の橘学苑内に開設した。この事業は児童福祉法に基づく児童発達支援事業であり、発達障害を持つ子どもへの療育を行うものである。
この発達障害とは、法律用語であり疾病概念ではないが、たとえば自閉スペクトラム症、注意欠損・多動性障害(AD/HD)、学習障害、精神発達遅滞などがあげられる。具体的には、社会性の発達やコミュニケーション能力の障害、興味や関心の偏り、また落ち着きのなさなどから、うまく社会適応ができない子どもたちであるが、このような発達上の問題をかかえる子どもたちへの社会的な理解はけっして十分とはいえない。
また、このような発達障害を持っている子どもの養育に不安を抱える親も多い。そのため、子どもへの支援と同時に親の悩みに寄り添っていくことも大きな課題である。現在、立正福祉会では、特に就学前の子どもたちを対象に、早期の療育を目指している。
なお、この教室の愛称「たっち」は、子どもが自分の力で立ち上がり、自立を意味する「立っち」であり、また子どもとのふれ合いを意味する「タッチ」から名づけられている。
児童憲章には「児童は人として尊ばれる」、「児童は社会の一員として重んぜられる」、「児童はよい環境の中で育てられる」と明記されている。
私たちは、障害の有無によって偏見や差別を受けることがあってはならない。まして社会の弱者である子どもは、しっかりと社会が守っていかなければならない。
あらためて宗祖の「子に過ぎたる財なし」のことばを、こころに刻み、宗門の社会に向けた活動を応援したい。
(論説委員・渡部公容)