オピニオン

2016年7月10日

蓮華のようなお祖師さま

 古来、われらがお祖師さまに対しては毀誉褒貶が激しい。殊に仏教学者の中には、お祖師さまが1260年、『立正安国論』を時の権力者(前執権である北条時頼)に提出して、彼らの信仰を改めさせようとしたことが気に入らない、という方が少なくないようである。彼らの言い分としては、「僧侶は俗世を離れて覚りを目指すのが本分である。事実、釈尊もマガダ国王の〝将軍として召し抱えよう。私の右腕となってくれ〟という申し出を断っているではないか。僧侶でありながら政治に口出しするなど、全くもって仏意に背く行為である」というものが大勢を占めているようである。しかし、このような批判は仏教という宗教に対する誤解によるものであることを、この際はっきりさせておきたいと思う。
 なるほど、インドにおける出家者の本分が「俗世を離れて覚りを目指すこと」であること自体には、筆者にも異論はない。しかしそれは、インド社会が「生まれによる貴賤差別」であるカーストに基づく社会だからである。最古層の仏典『経集(スッタニパータ)』に見られる「生まれを問わず、行いを問え」という教誡からも知られるように、仏教は「血統主義、家柄主義」ではなく、徹底的に「行為主義」に立脚する宗教である。「生まれによって貴賤上下の別が定まるのではない」という仏教の行為主義は、インド社会では完全に「非常識」であった。そのためインドの出家者は、「生まれを問わず、行いを問え」という行為主義を徹底するためには、どうしても「俗世(インド社会=カースト社会)を離れる」必要があったのである。さらにこのことからは、インドにおける出家が、カースト社会を離れることを意味していることも確認される。
 ところが日本社会はカースト社会ではない。したがって「出家」の在り方もインドとは異なって構わないことになる。行為主義に立脚できるならば、俗世(日本社会)に留まったままで、覚りを目指すことも可能となる。仏教徒の本分は、まさしくこの「覚りを目指す」ことである。インドはカースト社会であったため、「俗世を離れて覚りを目指すこと」がインド仏教徒の本分であったに過ぎないのである。
 もちろん、日本では出家者がその身を俗世に置いたままであることが可能であったとしても、その精神・価値観まで俗化してしまっては本末転倒である。実際、出家と称しながら家柄主義に立脚し、世俗の権力を保ち続けた「法皇」や「有力貴族」は、この悪い典型例である。ところがお祖師さまの場合、どれほど俗世間の問題(安国)に関心を寄せようとも、それらが全て出世間的な価値観に基づいてなされていたこと、すなわち、お祖師さまの精神・視座がどこまでも出世間的であったことを見逃してはならない。
 仏教では古来、蓮華が尊ばれてきた。それは、蓮が泥土に根を張りながらも泥水には汚されない清浄な華を咲かせることを、人間が煩悩の垢にまみれた俗世間・世俗社会に生まれながらも、清浄な仏・菩薩へと成長できることに喩えたからである。インドはカースト社会であったため、出家者はその社会に根を張ることなく、「根無しの浮き蓮華」となり、13世紀にはついにインドから消え去らざるをえなくなかった。日本では仏教徒という蓮が「社会にきちんと根を張り、しかも清浄な華を咲かせることができる」ことを身をもって示して下さったお祖師さまは、間違いなくお日様に比すべき大輪の蓮華なのである。南無日蓮大菩薩。南無妙法蓮華経。
(論説委員・鈴木隆泰)

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