オピニオン

2016年2月10日

あんのん基金に思いを託す

本年に入って間もなく、井戸まさえ著『無戸籍の日本人』という本に出会った。
戸籍のない人たちの存在は、2014年に、NHK「クローズアップ現代」で「戸籍のない子どもたち」として放送されて大反響となっていたから、ご存知の方も多いと思う。
この番組が放送されたときには衝撃を受け、現代社会の暗部を垣間見たように感じたのに、この本に出会うまで、戸籍を持たずに辛苦に喘いでおられる方々の存在を忘れてしまっていた。恥ずかしい限りである。
ところで、個人的なことであるが、昨年は、生まれて初めての入院と手術を経験し、その療養と体力の回復に費やした年であった。現代の医療水準の高さのおかげか、現在では以前の体力にまで回復している。ありがたいことだと思う。
ただ、その分、多額の医療費が生じてしまったが、健康保険制度と高額療養費制度によって、直接の支払いは5分の1程度で済んでいる。しかも、多少の手術・入院の保険金も受け取れたことで、図らずも健康保険や医療保険のありがたみを実感することになった。
しかし、もし自分が無戸籍の立場であったならば、健康保険等に加入することも難しく、結局は多額の医療費を全額自己負担しなければならない。しかも、普段から収入の道が限られて厳しい生活を強いられているであろうから、始めから適切な医療などはあきらめざるを得ないのかもしれない。すでにこの世の人ではなくなっている可能性が高いということだ。
『無戸籍の日本人』では、無戸籍の人たちが生まれる理由について、5つ挙げている(52~53頁)が、その中で、社会的に問題となるのは、「①「民法772条」の嫡出推定、いわゆる「離婚後300日問題」などの法律が壁になっているケース」と、「②親の住居が定まらない、貧困などの事情により、出産しても出生届を出すことにまで意識が至らないか、意図的に登録を避けるケース」の2つであろう。
①については、昨年末、女性は離婚後6ヵ月間再婚できないという規定が最高裁で違憲と判断されたので、法改正が進む可能性がある。また、②については、若い世代の貧困の問題とも絡み、表に現れにくい社会問題の一端と言えよう。
この本の著者である井戸まさえさんは、県会議員や国会議員を経験されており、今も政治活動をされているという。その忙しい中で、無戸籍の人たちを救う活動をなさっておられるのであるから、本当に頭の下がる思いだ。
しかし残念ながら、私にはこの著者のような無戸籍の問題に特化した活動は不可能である。そしてそれ以上に、私たちが注意を払わなければならない社会問題は多岐にわたり、日本だけでなく、世界中に溢れている。
それゆえに、自分には何もできないなと思ったときには、私は「日蓮宗あんのん基金」に寄付をすることにしている。あんのん基金は、世界各地で国境を越えて活動するNGOから、地域に根ざして着実な活動をしているNPOに至るまで、その活動内容を有識者の皆さんが精査して、申請に応じて寄付金を配分している。
むろん、具体的活動に実際に参加することが大切だということは十分承知しているが、あんのん基金への寄付は、人びとの多種多様な苦しみや悲しみに敬いの心を持って寄り添い、少しでも役に立ちたいという思いを託すということである。安穏な社会を実現するために。
(論説委員・中井本秀)

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