2016年1月20日
随分昔になる。NHKテレビに「ウルトラアイ」
随分昔になる。NHKテレビに「ウルトラアイ」という番組があった。人間の目に見えないものを科学の目、つまりウルトラアイで観るという科学番組。ある時、ベートーベンの「運命」はネズミの耳にはどう聞こえるかとう実験があった▼ネズミの耳に小さな電極を埋め「運命」を流す。と、なんとネズミの耳に聞こえたのは、私たちが聞くのとまったく同じ、ジャジャジャジャーンというあの「運命」。つまりネズミにも私たちと同じ「運命」が聞こえていたというのだ▼問題はここから。その「運命」を聞いて感動したり勇気を感じるのは人間だけ。同じ「運命」もネズミの耳にはただの音でしかない、というのだ▼能楽の大成者の世阿弥が書いた『風姿花伝』の中に「観の体」という言葉が出てくる。観の体とは物事を観察する主体、つまり私たち自身のこと。能の上達の秘訣は、能を舞う体の動きや技術といったことより、その人自身の心や感性が大事だという▼世の中の動きは速い。やっと携帯電話のメールができるようになったと思ったら、もうそんなのは時代遅れ。道具の世界はまさに日進月歩▼しかし機械は所詮道具。道具の操作も大事だが、もっと大事なのは機械を扱う私たち自身。道具の扱いは天才的なのに、その品性はネズミ以下という人間が増えている。ネズミと人間の違いは耳ではなく耳の奥の「観の体」だ。気をつけなくては。(義)