オピニオン

2015年12月10日

スカッとする話

『下町ロケット』というテレビ番組があります。中小企業が、元請けの大企業に対し、自らの主張を貫くという話です。「下請けの分際で何を言うか」という上から目線の大企業に対し、高い技術力を持つ中小企業が、一致団結して対抗し、大企業を圧倒していく姿は、多くの人の共感を得ています。また一年前には、『半沢直樹』というドラマが人気を集めましたが、こちらは上司の不正によって陥れられた主人公が、仲間とともに、その不正を暴いていくという内容です。この時主人公が言った「やられたらやり返す、倍返しだ!」という言葉は流行語となりました。これらのテレビドラマは、『水戸黄門』のドラマの最後で、ご老公水戸光圀のお付きの助さん格さんが「このお方をどなたと心得る。恐れ多くも先の副将軍・水戸光圀公なるぞ。ご老公の御前である。頭が高い、控え居ろう」と言うと悪人たちがひれ伏すという勧善懲悪の話の流れにあるように見えます。いつの時代でも、善人が耐えに耐えて、強い悪人を倒すというドラマは人気があります。ネットでも、『スカッとする話』というサイトがあります。ここでも悪い人間に罰があたるという実話が人を惹きつけています。
現実の世界では、善いことをしても必ずしも、それが社会的に報われるとは限りません。理不尽なことの方が多いかもしれません。悪いことをして金儲けをした人が、逃げてしまったり、だまされてお金を取られた人にお金が戻ってこないなど、納得のいかない事件が多く見られます。責任を取るべき人が責任を取らず、他人に責任を押し付けたり、責任の所在をうやむやにして逃げようとする人もいます。そのように責任を取らない現実社会に対して、ドラマの中の勧善懲悪に多くの人が惹かれるのでしょう。
ただし、最近逃げられなくなってきた世界があります。ネットの世界です。先日、いじめを苦に自殺した少年にいじめを繰り返していた少年たちがネットの中で、顔写真・氏名だけでなく、住所・家族構成から通学する学校の名前まですべて、晒されて袋叩きの状態になっていました。また、コンビニで店員に言いがかりをつけ、土下座をさせた男が、ネットの中の犯人捜しで、氏名・住所・会社名までネット上に曝され、逃げきれないと思い、怖くなって警察に自首してきたという事件も以前にありました。これはネットの世界で、勧善懲悪が極端な形で現れたものでしょう。しかし、このように問題となった人間が罰を受ければ、問題が解決するのでしょうか。
悪いことをした人間は、社会的に罰せられなければなりません。それによって、社会の秩序が保たれ、人間が人間らしい生活を送ることができるからです。しかし仏教は、罰することが人を救うとは考えていません。「自分が自分に対して、いかに納得するか」が重要であると考えるのが、仏教者としてのものの見方と言えます。犯罪の被害者やその家族は、犯人が罰せられるだけでは問題が解決したとは思っていません。自分をどのように納得させるかで悩んでいます。犯人を見つけて罰するだけでは、被害者は救われません。
人生は修行であり、体験することすべてが自分の修行となります。被害者に、自らのつらい体験を、自分の人生において、どのような意味を持つと考えるように相談に乗るのかが、私たち仏教者がとるべき対応であり、罰するだけで終わったという世間にも、そこをわかってもらうよう教化努力していくべきではないでしょうか。

(論説委員・松井大英)

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