論説

2015年5月20日号

終戦70周年を迎えて思うこと

終戦70周年を迎える今年は、各地で記念の式典や催しが行われている。天皇皇后両陛下もかねて念願だったペリリュー島への慰霊に80歳を越えてからお出かけになられた。その報道でペリリュー島での戦いを初めて知ったという人も多いだろう。
終戦の年に生まれた人が70歳の老人になっているのだから、それより年上の戦争体験者は少なくなっている。あの悲惨な状況を伝える生き証人がいなくなると再び戦争への道をくりかえすことになりはしないか。最近そんな動きが感じられるだけに心配である。
戦争の悲劇を繰り返さないためには、それを語り継いでいくことが大切であり、風化させてはならないことである。
太平洋戦争は昭和16年の末に始まり4年間続いたが、とりわけ昭和20年になってから連合国の空襲により日本の大中の都市が爆撃を受けた。戦況は日に日に悪化して多くの人はこのままでは被害を拡大させるだけだと案じていただろうが、戦争を終わらせる気がない軍部に踊らされ、ひたすらついていくしかなかった。その結果、空襲で多くの家や財産が失われ、何よりも失わなくてもいい大切な命が多数奪われた。
筆者は終戦を迎えた昭和20年、小学4年生であった。横浜で空襲に遭い、火炎地獄と化した中を逃げ回りどうにか命だけは助かったが、焼け出された多くの人びとと同様、路頭に迷い悲惨な生活を余儀なくされ、つらい少年期を過ごした。
戦争は実に残酷である。人間の心を鬼にも蛇にも変えてしまう。連合軍は日本本土を破壊し尽くし、そこに住む人たちを皆殺しにする作戦を立て、じゅうたん爆撃と称する作戦を実行した。B29が上空から焼夷弾をばらまき、地上にいる人間も生き物もすべて焼き尽くす戦法である。
先程まで楽しく遊んでいた友だちは真っ黒になって焼け死んだ。命を守るはずの防空壕に逃げ込んだ人たちもほとんどが焼け死んだ。空襲はわずか2時間ほどで横浜を焼き尽くし、そのあとには炭と化した死体があちこちに横たわっていた。
原爆を落とされた広島・長崎の惨状はもはや人間の行うことではない。これが戦争である。個人的には何の恨みもない相手を殺さなければならないのが戦争である。そこには恨みと悲しみだけが残る。
日本はその体験から、今後一切戦争は起こさないという決意を持って、平和憲法のもとに戦争のない国を創ってきた。戦争がいかに酷い行為かは、いやというほど体験し莫大な犠牲を払って学んだはずだ。そして今日があるのである。
いくら軍隊を持ち武器を整えてもそれだけで、平和を守り人びとの命を守ることはできない。自国(同盟国も含めて)の利益だけを考えていては、この地上に真の平和をもたらすことはできないだろう。
戦後の復興を遂げて経済大国になった日本は、発展途上国に経済援助や技術援助等により良好な関係を築いてきた。これからより多くの国々と平和外交を積極的に推し進めることが大切だ。
仏教でいえば、お互いがお互いを尊敬し合掌して拝むことであろう。国と国とが、人と人とが拝み合い、尊重し合う世界を創ることだ。
天皇皇后両陛下も同じようなお気持ちを持ってペリリュー島の慰霊に臨まれたのではなかろうかと拝察している。
(論説委員・石川浩徳)

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2015年5月10日号

嘘と方便について

「ゆびきりげんまん、うそついたらはりせんぼんのます。ゆびきった」。日常保育の中で、こんなやりとりを教師と子どもたちの間でしているわが幼稚園。つい先日は、図鑑を開きながら子どもが「先生、本当にうそをついたらこんなとげとげのおさかなをのまなきゃいけないの?」と問いかけられた。開かれたページには「ハリセンボン ハリセンボン科の魚の総称」と書かれた写真。とてもほほえましい勘違いのなかで子どもたちの想像力は、大きく育っていく。
信頼できる大人とのやり取りの中で、「人として絶対にしてはいけないこと」を人間として、先輩として哲学とともに次の世代に伝えていくことも、私たちの使命であると思う。「うそをついてはいけない」ということも、その一つである。しかし、嘘が決して悪いものだけではない場合もある。そこに「人を悲しませたり、陥れたり、不幸にしたりするものでないこと」が絶対条件である。
まだまだ寒かった2月20日神奈川県川崎市多摩川河川敷で13歳の少年の遺体が発見された。この事件は、詳細が明らかにされるたびに悲惨で、残虐な事実が浮かび上がった。被害者の少年は、主犯格の18歳の青年と未成年の2人によって裸にされ、真冬の川で泳がされたあげく、カッターナイフで何か所も切り付けられ、首をナイフで刺されるなどして絶命した。私は、記事を読みながらその風景を想像するだけで悲しみに震えた。しかし、犯人たちは、犯行後遺体を隠し、証拠隠滅のために衣服を燃やしている。当時、遺体発見の速報は不明確なことが多かったが、タイムリーに報道されていたテレビで、後日逮捕される3人のうちの一人の少年が、嘘の証言をインタビュアに淡々と答えていたのを見た。さらに、主犯格の青年の父親も息子を庇う嘘の証言をし、事実が判明したのちバッシングを受けていた。彼らの心理はどう働いていたのであろうか。「人として絶対にしてはいけないこと」の中の嘘であることは明確である。
ことわざのなかに「嘘も方便」という言葉がある。この語源は、江戸時代から見られたようであるが、法華経に説かれる譬喩に由来するとされている。仏教辞典で方便という言葉は、「ウパーヤ」=接近するという意味の動詞から派生した語で、一般的には衆生を導くためのすぐれた教化方法、巧みな手段を意味すると記される。つまり、目的を成し遂げるためには時として嘘をつくことも必要となる。という肯定的なものとしてこのことわざが存在する。
釈尊が説かれる七つの譬喩が法華経の中に示されている。如来寿量品第十六、「良医狂子」の譬では、誤って毒を飲んでしまい、正常な心を失ってしまった子どもたちのために、名医であるその父親が、嘘(方便)をもって自分の死を伝えることによって子どもたちは正気を取戻し、薬を飲んで救われたというのである。釈尊はここで父であることを示し、正気を失った子どもたちを衆生に置き換えてその父が残してくれた薬は釈尊の教えであり、服した教えによって私たち衆生に救済を施している。
「嘘は方便」でなくてはならないと思う。私たちはもう一度釈尊の説く真理に導かれるための手段を考えてみよう。犯罪者やその家族のみならず、現代社会には、自分の利益に溺れる嘘が蔓延している。これからを担う子どもたちは「ゆびきりげんまん」をしながらそんな大人たちの心の内を透視しているのかもしれない。
(論説委員・早﨑淳晃)

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2015年5月1日号

核不拡散条約再検討会議と立正安国・お題目結縁運動

第9回NPT再検討会議
今年の4月から5月にかけて国連本部で、第9回核不拡散条約(NPT)再検討会議が開かれている。
核不拡散条約は1968年に署名され、70年に発効した国際条約である。核兵器の保有は米露英仏中の5ヵ国に限定され、それ以外の国(非核兵器国)は核兵器の受領、製造が禁止されている条約である。
しかしその後、核兵器保有の権利の点で、保有国と非保有国と本質的に差別があることからこの条約を再検討すべきだという会議(再検討会議)が1975年から5年毎に開かれている。今年はその9回目となった。
核不拡散条約では、核兵器保有国が核軍縮を誠実に実行することを約束している。
この条約が発効してすでに45年が経過した。たしかに核兵器は削減されてはきたものの、世界には未だ1万6千発もの核弾頭が存在するといわれている。
第6回(2000年)再検討会議では「核廃絶の明確な約束」が合意されたとはいえ、このことはなかなか進んではいない。
日蓮宗の要請団
この5年毎に開かれる再検討会議には、核廃絶を求めて世界中からニューヨークに要請団が集まる。国連事務総長に署名簿を提出したり、各所で集会が開かれたり、宗教者は各宗教合同の祈りの集いを持ったりして核兵器廃絶の要請運動が行われる。
特に1日は各国の要請団が合流して、ニューヨークの街頭をデモ行進する。各国それぞれの趣向で、何万という人々が核廃絶を訴えて行進する光景は、まさに感動的である。
日蓮宗では、第1回から立正平和の会が参加し、日蓮宗宗務総長の親書を国連事務総長に提出している。
更にニューヨークの街頭行進では撃鼓唱題し、立正世界平和のお題目を声高らかに唱えてきた。特に第8回会議には、日蓮宗青年会の大勢の青年僧が撃鼓唱題行進し、ニューヨークの市民はもちろん、世界各国からの参加者に大きな感銘を与えた。
今年の第9回会議にも、立正平和の会の各聖が要請団を組織し、宗務総長の親書を携えて行った。今回もニューヨークの国連本部に立正世界平和・核兵器廃絶の祈りのお題目を響かせてきてくれる。
立正安国・お題目結縁運動
クリミアをロシアに併合するにあたって、核兵器を使用する準備がなされていたことを、最近プーチン大統領が発言している。
またこの度行われたロシア北方領土での大規模軍事演習で、核兵器使用の想定がされていたことも報道されている。
核使用禁止条約の制定や核廃絶への人類の悲願に逆行していく流れだけは、何としても止めなければならない。
今度の第9回会議に、オーストリアが「核兵器禁止、廃絶のための法的組織づくり」を呼びかける文書を全加盟国に配布した。第2次世界大戦終戦から70年の節目を迎えて、世界で初めて核兵器の残酷さを体験した日本は、この地球滅亡の兵器の廃絶のために、世界を先導していかなければならない。
立正安国のお題目を唱える私たちは、人を殺す最たる兵器である核兵器を、人類社会から一日も早くなくすために、世界平和核廃絶を祈る唱題の輪を広げていこう。
「汝早く信仰の寸心を改めて、速かに実乗の一善に帰せよ」と、日蓮聖人は『立正安国論』で述べている。南無妙法蓮華経の光明は、宇宙を照らす太陽のように、地球人類を照らす大光明だ。この大光明の信仰に今こそ日本が立ち上がる時だ。
(論説委員・功刀貞如)

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    日蓮宗新聞社編
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