2014年12月10日
外国から見たニッポン
最近、『外国人から見た日本』をテーマにしたテレビ番組を多く見るようになりました。「あなたは何をしに日本に来たのですか?」。日本の国際空港で日本を訪れた外国人にインタビューする番組や日本の一流の職人によって作られたものが海外で高い評価を受けていることを紹介する番組、外国人が日本の歌を歌ったり、日本文化を体験したりする番組など、見ない日はないと言っても良いでしょう。
かつては、海外の有名観光地や日本人の海外体験を紹介する番組が多かったようですが、今は日本人が海外へ日本の技術や文化を紹介・教授したり、外国人が日本で様々な体験をするなど、海外知識の輸入から日本の文化・技術の輸出へと番組の性格が変わってきています。
この転機の一つと考えられるのが、東日本大震災です。あの未曾有の大災害の中で暴動・略奪等が一切起こらず、配給品に辛抱強く列を作る日本の被災者の姿に世界中が驚愕し、感動しました。「このような混乱の中で秩序が保たれるのはおそらく世界中で日本以外にないだろう」とまで世界中のジャーナリストに言わしめた日本人の公徳心は、日本人にとっては「当たり前のこと」とされていたものです。この世界中からの称賛は日本人に自らに対する誇りを再確認させました。ここから、日本人の「国際化」に大きな変化が生まれました。
一昔前、日本では「国際化」は「海外のことを学ぶこと」と考えられていました。外国語を習って、外国の知識を得ることが日本人にとっての「国際化」でした。しかし、海外へ留学した日本人の多くが、海外で日本の文化や歴史、社会について質問され、まったく答えることができず、恥ずかしい思いをした経験を語っています。そして彼らは皆、日本に帰ってくると、日本のことを勉強するようになりました。彼らは異文化と接することで自分の文化を知ることの大切さを始めて認識したのです。
東京オリンピックの開催も決まり、今後さらに多くの外国人が日本を訪れるようになると、日本人が自分の文化を説明する機会が増えていくことが予想されます。外国人からの質問で最も多いのは「これは何ですか。これはどういう意味ですか。なぜこうするんですか」という「なぜ、どうして」の質問です。実はこれが答えるのに最も難しい質問です。日本人同士では、まずこの質問をされることはありません。「なぜ合掌するのですか?」「合掌の形にはどんな意味があるのですか?」「合掌は誰に向かってするのですか?」。どうでしょう、いきなり質問されたらかなり慌てるのではないでしょうか。私たちが日常行っている行為について、その意味を考える機会はあまりありません。「知っていて当然、知らないと恥ずかしい、知らなくても困らない、だから聞かない」ではないでしょうか。しかし、この質問に対する答え、非常に大切な内容を持っています。もっとも重要な部分と言ってもよいでしょう。
すべての行為には意味があります。意味を理解していると、異なる状況でも対応することができます。意味を忘れていると、形にこだわり、新しい時代・異なる環境に対応できません。外からの質問・疑問に答えることの意味がここにあります。普段聞かれることのないことを質問され、それに答える努力をすることで、今行っていることの本質を再認識することができるのです。外国人から質問された時だけでなく、自分から自分に向かって、「なぜ、どうして」の質問をしてみてはどうでしょう。「今、自分はなぜ合掌しているんだろう?」仏壇の前で考えてみることで、毎日の生活が変わるかもしれません。
(論説委員・松井大英)