オピニオン

2014年12月1日

「がんばれ!」ということば

被災地での支援活動、あるいは病気や障害、高齢化によって生ずる苦しみに寄り添うビハーラ活動、また自死遺族に対する支援の場などにおいて、私たちが注意しなければならないことは数多くある。そのなかで慎重に使うべきことばが「がんばれ!」であろう。
このことばを、私たちは日常的にかなり頻繁に、また何の疑問も持たないで使用しているが、その使い方には十分な配慮が必要とされる。
「がんばれ!」ということばは、相手を励まし、元気付けをする際に、自然に口から出るものではあるが、このことばは、場合によっては「今のあなたではだめ!」「変わらなければだめ!」というメッセージとして相手に伝わることが多い。つまり、その人の現在を否定することと同じ意味を持つのである。私たちは軽い励ましで言ったつもりが、それを受け取る相手には、予想以上に重い負担となる場合があることを十分に承知しておかなければならない。
たとえば、うつ病と診断された人にこのことばは禁句とされている。それは「…自分では一生懸命やっているつもりだが…そうか…今の自分ではだめなんだ…でも自分にはこれ以上できない…自分は人の期待に応えられないだめな人間なんだ…」と受け止められ、結果的に相手に過度のプレッシャーを与え、最悪の場合には自死へと追い込んでしまうことさえある。
また、難病や末期がんなどで闘病中の人たちにも「…自分はこんなにがんばっているのに…これ以上いったい何をがんばれと言うのだろうか…」と受け止められやすい。これでは元気付けどころか攻撃でしかない。
このような決まり文句としての「がんばれ!」ということばは、被災地支援活動においても生じやすいが、相手によっては、現在の自分を否定されたものとして伝わる可能性を孕んでいる。その被災者にしかわからない苦しみや心情、先の見えない不安は、私たちの想像をはるかに超えたものであることを、あらためて心しなければならない。
かつてプロテニスプレイヤーのクルム伊達公子選手が一度引退した時、自分がコートに入って行くと観客から「がんばれ!がんばれ!」という声援を浴びたが、それはとても嫌だったと述べている。つまり自分としてはこの試合のため万全の調整をして臨んでいるのだが、観客はただ一方的に「がんばれ!」と声をかけてくる。しかし、もうこれ以上がんばれない自分としてはとても辛かったと言う。
もちろん、サッカーやバレーボール、野球などのチームプレーの場合では、大きな声援ほど選手にとって力強く感じるようであるが、個人プレーの場合には、その声援を一人で受け止めることが負担となってしまうことも多いと思われる。
このように「がんばれ!」ということばは、時に相手を追い込んでしまう場合がある。しかし、よく似たことばで「がんばったね」というのは、その人のこれまでを認めること、相手を肯定することばとして考えられるので、その心配は不要だと思われる。
いずれにせよ、私たちのたった一言が相手に思わぬ影響を与えることもある。人への支援を思う時、一方的な「がんばれ!」ではなく、その人に寄り添い、その人のことばをしっかりと受け止め、そのこころのことばに耳を傾けていくことがなによりも肝要であろう。これは、被災地支援活動やビハーラ活動のみならず、私たちの人間関係の基本として、常に留意すべきことであるといえるだろう。
(論説委員・渡部公容)

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