鬼面仏心
2014年9月1日号
保護司会が主催する講演会に参加したことがある。
保護司会が主催する講演会に参加したことがある。講師は建築会社の社長で「罪を犯した人との向かい合い方」という直截な講題に惹かれたからだ。そこで語られたのは、刑務所を出所した人を積極的に雇用している経営者の体験談だった▼そのなかで「これは新聞で本人が語っていることなので」と断りがあって、歌手の槇原敬之さんの話を始めた。21歳でデビューした槇原さんは「どんな時も」「もう恋なんてしない」等が大ヒットして、時代の寵児となったその人生が暗転したのは、あの事件だった。平成11年夏、覚醒剤取締法違反で現行犯逮捕、懲役1年6ヵ月、執行猶予3年の有罪判決を受けた。当然巻き起こる社会からの批判、疲れ果てた槇原さんは、翌年の4月、救いを求めて身延山久遠寺に到る菩提梯を登っていた。拘置所で、宗派を問わずに本を読み漁った。そのなかで選んだ場所だった。どうしたら強い心で正しく生きていけるのか、手本は日蓮聖人だったのかもしれないと私は思った。身延山でいただいた祈願札は「大海に浮かぶ小さなイカダだった」と本人が語っている▼復帰した槇原さんは、やがて教科書に載った名曲「世界に一つだけの花」を生み出していく。「自分に植えられている種を真剣に見つめて、きちんと水をやろう。そうすれば相手もその種があることに気づくはず。競う相手は他人ではなく、自分自身なんだと」(雅)