論説

2014年8月10日号

人に向かって合掌

 東京オリンピックの招致の時、最終プレゼンテーションで、滝川クリステルさんが最後に聴衆に向かって、合掌してお辞儀をしました。これは外国人のトレーナーの指示によるものであると言われますが、外国人の間では「日本人は皆仏教徒である。」というイメージがあるようです。それに対し、日本のネットの世界では「合掌ってなんか違う」「あれが日本式(のあいさつ)かと勘違いされる」「合掌して挨拶や御礼はしない」など違和感を訴える人間も多くいました。神仏に対しては自然に手を合わせる日本人ですが、人に向かっての合掌は日本社会の中ではまだ一般的ではないようです。宗門の広報でも、合掌の姿の写真の多くは、本尊に向かって手を合わせています。
 宗門は立正平和社会の実現を布教の基本方針としています。私たちは常不軽菩薩の但行礼拝の精神をもとに合掌礼を社会へと広めていくことが求められています。法華経には、遭う人すべてに対して「但(ただ)礼拝を行じる」常不軽菩薩が描かれています。常不軽菩薩は、遭う人に対して、その人が将来仏になる可能性を信じて、手を合わせました。しかし、合掌された人々は、常不軽菩薩の合掌の意味がわからず、当惑し、反発します。中には石を投げる人もいますが、常不軽菩薩は石が当たらない所まで引いて、また手を合わせます。決して相手を軽く見ることなく、常に相手の将来の可能性を信じ続けたのです。常不軽菩薩の但行礼拝は相手が理解するまで続けられました。
 先日、ウクライナ上空でマレーシアの旅客機が撃墜されるという悲劇が起こりました。また、中東ではイスラエルとハマスの間で果てしのない報復攻撃が繰り返されています。アジアでは、中国の海洋進出によって、南シナ海・東シナ海で緊張状態が続いています。今世界各地で、平和が脅かされています。国内では、集団的自衛権の是非が論じられていますが、左右のイデオロギー論争に巻き込まれ、実のある議論になっているとは言い難い状況です。
 このような国内・海外での緊張と混乱の社会の中で、今こそ、私たちは合掌・礼拝を人に向ける時ではないでしょうか。ご本尊に対しての平和の祈りに加えて、争いのある環境に入って、相手の平和への可能性を信じ、合掌する。相手から何をされても、相手に合掌する。その姿を見て、相手が自分の姿を省みるようになるまで、ひたすら相手に合掌する。これはインド独立の時の、ガンジーの非暴力運動にも似た行為です。ガンジーは相手に暴力をふるわせ、その愚かさを相手に気付かせました。そして最後には独立を勝ち取っています。その崇高な非暴力の思想は、常不軽菩薩の但行礼拝にも通じるものです。しかし、この行為は暴力をふるう相手に無抵抗で立ち向かっていくわけですから、自らに非常な忍耐と慈悲と勇気を必要とします。
 常不軽菩薩の合掌は、人に向けられています。しかしそれは、前述の滝川さんの行為に対する批判のような「挨拶」としての合掌ではありません。相手を敬う行為としての合掌です。
 僧侶は寺を出て、信徒は家を出て、争っている人たちに合掌する。相手を敬う常不軽菩薩の合掌の心は、争いの中で頭に血が上っている人たちの心を静めます。現在、日本に敵対している中国・韓国の人たちにも、国内で戦闘的になっている人たちにも、相手が理解してくれることを信じて、相手に向かって合掌する姿勢、これが今、宗門が社会に広めるべき常不軽菩薩の但行礼拝ではないでしょうか。
(論説委員・松井大英)

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