オピニオン

2014年5月10日

「師」の存在意義を問う

期待と不安で迎えた4月というスタートを、多くの学生や新社会人が経験したことであろう。幼稚園の園長という立場でもある私は、この1ヵ月間、新しい環境にまだ見通しが立たず、不安な気持ちを泣いたり怒ったりして表現する新入園児たちの心もちに寄り添いながら、抱っこしたりおんぶしたりして、安心の場作りを教師一丸となって祈る気持ちでやってきた。それは幼児にとって、親から初めて離れ心許す教師の存在との出会いが、いかに大切かを信念にしているからである。
埼玉の県立高校で、新入生の担任教師4人が入学式を欠席した。いずれも自分の子どもの入学式に参加するためだったと報じられ、ネットやテレビなどで議論が広がっている。4人は事前に、校長に相談して有給休暇を認められており、手続きは問題がなかったという。我が子か教え子か? わが子を選んだ教師。しかし、わが子の担任は、欠席することなく入学式に出ていたのであろう。先生という職業理念に反するのか? 教師にもワークバランスを認めて当然か? 賛否に分かれたこの議論は、これからも続くことを望みたい。さらに私がこの報道で憤りを感じたのは、その校長が「こんなに騒動になることは、予見していなかった。学校の名誉にも関わるので、今後は、1年生の担任は欠席を認めるか判断が難しい」とコメントしていることである。学校を統括し、生徒のみならず教師を指導するトップが、こんな場当たり的なコメントをしていることに、教育のこだわるべき「質」の低下を感じずにはいられない。
このことに苛立つ私を救ってくれたのは、3月に高校を卒業し、証書を持って報告に来てくれた卒園児である。彼は幼い頃と変わらぬ愛嬌ある笑顔の奥に、もう一つ凛とした精悍なまなざしを得ていた。さらに彼が私に手渡してくれたのは、3年前、東日本大震災の直後、卒業式を中止した際に当時の卒業生に送った校長先生のメッセージをプリントしたものだった。
そこには、大学で学ぶことは現実と向き合う時間を持つことでると説き「真っ直ぐに生きよ。くそまじめな男になれ。一途な男になれ。貧しさを恐れるな。男たちよ船出の時が来た。いかなる困難に出会おうとも自己を直視すること以外に道はない。いかに悲しみの涙の淵に沈もうとそれを直視することの他に我々にすべはない(中略あり)」と書かれていた。6大学に名を連ねる有名私立一貫校そして、何世代にもわたって経済的にも環境的にも恵まれた裕福な家庭の子どもらを集めてきた学校の校長が、「貧しさを恐れるな」という言葉を使って、親が歩んできたのと同じ方程式にこれからは通用しない。その価値観を捨て、現実をしっかり見て地に足をつけ生きていきなさい。と説いたのである。
そこには、体裁や形式にこだわらない校長の確固たる意思が、言葉にされていた。この文章を読みながら、目の前に立つ私の大切な卒園児が、良い師と出会えたことが心から嬉しかった。人生において、どんな師と出会うことができるのか。これは、運命であり縁である。その機会と人材を増やそうではないか。日蓮聖人は、「人のものをを教ふると申すは、車のおもけれども油をぬればまわり、ふねを水に浮かべてゆきやすきやうにをしへ候なり」と『上野殿御返事』で述べられている。導かれるもの学ぶものがいかに育つかは、導くもの教えるものがいかに今を見極め、自ら学び、己の資質を向上させるかに裏付けされる。驕ってはいけないのだ。
(論説委員・早﨑淳晃)

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