オピニオン

2014年4月20日

偽作・偽装・ねつ造等不公正横行す

 昨年3月、NHKで『魂の旋律~音を失った作曲家』と題するドキュメントが放映された。広島被爆2世の作曲家佐村河内守氏が、平成23年3月11日の津波で母親を失った少女のために『ピアノのためのレクイエム』を作曲する姿を、密着取材したものだった。佐村河内氏は、被爆2世であるばかりでなく、聴力を失った作曲家で、困難を克服して作曲をする、特異な才能を持つ音楽家というふれこみだった。以前発表した代表作『交響曲第一番HIROSHIMA』は、評判が高く、クラシック系のCDとしては異例の18万枚を売ったという。
 テレビでは、佐村河内氏を、視聴者が喜ぶ悲劇の主人公に仕立て上げることに躍起となっていた。佐村河内氏は、波打つ長髪にサングラス姿で、薄暗い部屋に閉じこもり、五線紙に向かっていた。足が悪いのか、部屋の中をはいずって動いていた。思うような着想が浮かばないと、いらだって頭を壁にごつごつとぶつける。譜面と格闘している姿は、まさに壮絶だった。けがをしているのか、楽譜の書きすぎで腱鞘炎にでもなっているのか、右手に包帯を巻き、杖をついて海岸の岩場をよろよろと歩き、作曲の行き詰まりを乗り越えようとする演出は成功したかに見えた。佐村河内氏の、悲劇の中に立ちながらも、絶対音感と直感的作曲能力を持つ芸術家としてのイメージ作りは万全で、「現代のベートーベン」として神格化されるのに十分であった。
 さらに、佐村河内氏を権威づける出来事もあった。氏の作曲になる『ヴァイオリンのためのソナチネ』は、ソチ冬季五輪のフィギュアスケートで高橋大輔選手が使うことになっていた。
 佐村河内氏の作曲家としての地位は、揺るぎのないところまで上昇したかに見えた。
 ところが、平成26年2月6日、突然佐村河内氏のゴーストライター、桐朋学園大学非常勤講師の新垣隆(にいがきたかし)氏が、記者会見を開くことになった。新垣氏は、会見するに至った理由は、「高橋大輔選手がソチ冬季オリンピックで『ヴァイオリンのためのソナチネ』を使うので、五輪も 佐村河内氏の虚構を強化する材料にされる」と思ったからだそうだ。
 新垣氏は18年前より佐村河内氏のゴーストライターをやっていたという。全く聴力を失い障害者手帳も持っている佐村河内氏が、ふつうの会話に不自由しなかったことを明らかにし、さらに、今まで20曲以上を佐村河内氏のために作り、報酬も受け取ったと明かした。著名人が自分の伝記などをゴーストライターに書かせることは知っていたが、クラシック音楽にもそういうことがあると知って驚いた。
 以前書道界でも似たような問題が起こっていた。書の全日展では、相当数の県知事賞が、一人の書家の作品であったことが明らかになった。出品点数を多く見せるための所為であったと報道された。公募展の不公正も暴かれた。日展の篆刻の部で、有力8会派に入選点数の割り振りがあることがわかった。
 芸術家は真実や美を求めることにおいて、信仰を求めることと同じような真摯さを持たねばならないであろう。
 日蓮聖人は『法華初心成仏鈔』で、「良き師」の条件を説かれている。「世間の失無くして、聊のへつらうことなく、少欲知足にして慈悲」を持つべき、とされておられるのである。「良き師」を、芸術家に置き換えれば、日蓮聖人のお言葉を芸術家への指針ととることもできる。
 日蓮聖人は、芸術家は真実に対し正直・謙虚であるべきであるし、金銭欲・名誉欲を持つことなく、人間に対し慈悲心を持って生きるべき、と教えておられるのではないか。        (論説委員・丸茂湛祥)

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