論説

2013年10月20日号

安穏な社会 のための「仏使」の姿

日蓮聖人(1222―82)のご生涯が、波瀾に満ちたものであったことは、多くの人の知るところです。鎌倉幕府の執権北条氏は、聖人が40歳に当たる弘長元年(1261)5月12日に伊豆国伊東へと流罪に処し、弘長3年(1263)2月22日の赦免まで、およそ2ヵ年間、聖人は流人としての生活を送られます。
さらに、50歳を迎えられた聖人は、文永8年(1271)9月12日に再び北条氏によって逮捕され、佐渡国へ流罪となり、文永11年(1274)2月14日の赦免状が下がるまでおよそ2年半、厳しい生活を強いられます(『報恩抄』)。聖人が32歳の建長5年(12
53)4月28日に宗教活動をはじめられて以来、入滅までのおよそ30年の内、4年半もの間、幕府によってその身が拘束されているのです。
このように、聖人自身の宗教活動が阻止され、人間としての自由が束縛され、流罪に処せられたのです。しかし、それのみならず、聖人ご自身が、「頭にきずを受け、左の手を打ち折られる」(『聖人御難事』)と記されているように、聖人は落命の危機に直面されています。それが、文永元年(1264)11月11日の夕方5時頃に遭遇された故郷安房国東条郷での法難です。これを「小松原法難」あるいは「東条法難」と称しています。今年は、この法難から750年を迎えることになります。
聖人は、この法難を、つぎのように記されています。「私たち一行は、十人ばかりで、そのうち襲撃に対して役に立つ者は、わずかに三・四人でありました。念仏者である地頭の東条景信方が私たちに対して射ってくる矢は、あたかも雨のように降りそそぎ、打ちかかられる太刀は、雷光のようです。出家の弟子一人はその場で殺害され、二人は重傷を負いました。私自身も太刀によって頭を切られ、さらに左手を打ち折られて、生命もついに最後を迎えたかと覚悟いたしましたが、不思議にも終りを迎えることなく、今日まで生命を保っています」(『南条兵衛七郎殿御書』)
この、聖人の南条氏に宛てられた手紙の一節を拝見しますと、聖人が43歳のときに受けられた小松原法難の刀難は、いかに厳しいものであったかがうかがえるのです。
室町時代の学匠である円明院日澄上人の『日蓮聖人註画讃』第二巻には、その場で殺害された弟子は鏡忍房であり、重傷の弟子は、乗観房と
長英房の二人であったと記しています。さらに、聖人の有力な信徒である工藤左近丞吉隆も、聖人一行の援護のために馳せ参じ、敵の太刀に打たれたと記すのです。
ところで、このように聖人の生命をもかえりみない宗教活動の根底には、仏教の教主釈尊の大切な教えが末法の時代に衰滅することを防止し、大白法たる法華経の教えを顕揚することによって、末法の一切の人々の指針を示すことにあったと拝察されます。すなわち、不惜身命の精神で、法華経を弘通しようとする「仏使」「如来使」の姿が明確です。
今日の私たちが、自己自身のことにのみ汲々とし、自己の利益を最上の価値とする人生観に終始したならば、けっして安穏な社会は到来しないでしょう。私たちが、日々お題目を唱え、法華経を拝読できる法悦に生きようとするとき、み仏の願いに思いをはせ、日蓮聖人の不惜身命の生き方を、自己の信仰の糧として、誓願として、大切に護り続けたいと思うのです。
(論説委員・北川前肇)

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2013年10月10日号

女性僧侶の活躍で日蓮宗は変わる

「天を支える半分は女性」という言葉があります。しかし「天下」となると男性優位が現状でしょう。政界・企業・官僚などどの社会も同様です。これは日蓮宗の組織も変わりません。
ところが少子高齢化が進み、経済も低成長期になった今、女性が活躍する多様性のある社会でなければ発展しない上、健全ではないと認識され始めています。日蓮宗においても僧侶資格を得る男性の信行道場修了僧が今年、初めて100人を割っています。これに対し女性僧侶(女性教師、尼僧とも称します)の修了者に大きな変動はありません。これだけ見ても女性僧侶の活躍が期待される要素があります。
男性優位は家父長制という、古代からの家族制度の名残りと思われます。これは家長が家族に持つ支配権で、生命・財産までも支配した初期ローマ法などが知られています。高度成長期には「夫は外で働き、妻は家庭を守る」という男女の役割分担もできました。主婦は財布を握り、家庭でこそ地位が高くなりましたが、就業率は下がりました。
しかし世界的動向を見ると、国連の「国際婦人年」が企画されたように、男女同権の意識が高まり、働く女性は世界中に10億人。消費動向の64㌫、高等教育の47㌫は女性です。経済の活性化のためにという観点から、管理職もアメリカは43㌫、独仏は38㌫。日本はわずか11㌫です。アジアでもシンガポールは31㌫に達しています。
日本でも男女共同参画社会基本法や、男女雇用機会均等法が成立し、たまたま東京オリンピック開催の決まった2020年までに女性管理職30㌫以上を掲げていますが、まだまだ努力目標のようです。ある調査では男女平等度は135ヵ国中、101位とお寒い限りです。男女の差は精神分析の創始者フロイトによると、「生理学的相違を除くと、差はない」とされており、体力的差など僅かしか考えられません。女性の有業率が高い国は、出生率も高く財政も良いというデータがあります。現に日本で一番幸福度の高い福井県は共働きが多く、高出生率です。
日蓮宗の現状はどうでしょうか。女性僧侶は全国に約千人登録され、僧侶全体の11・6㌫を占めます。在家ですが寺院の婦人や檀信徒中にも、有能な女性は大勢います。しかし宗門の役職に就いている方は、数人しかいません。この原因は、①宗門組織に女性登用、共同参画の意識が低い。②住職夫人など寺庭婦人を兼任している方も多く、多忙なため役に就けない。③檀信徒側からも女性僧侶を低く見る傾向があり、裏方に回ってしまう等です。歴史上、女人不成仏説による軽視もありました。しかし法華経こそ女人成仏の手本であり、しかも男子と成ってから成仏する(変成男子)説を否定し、女性のままの成仏を日蓮聖人はお示しになっています。
宗門活性化のため女性僧侶を登用し、その役割を強めるには特性を生かせる分野の開発と、機構上の仕組みが必要と思われます。その分野とは、①地域未信徒教化(女性の多いPTA等で接触し易い)。②育児支援。③介護支援。④傾聴。⑤相談窓口。このような点が考えられます。
また仕組みとは、男女平等実現までの時限的措置として考えられた「クオータ制」を導入すべきだと思います。これは目的実現まで、一定の比率で人員を割り当てる制度です。議員など政治での性差クオータ制は、90ヵ国以上で採用され、フランスでは憲法で半数を義務付けているほどです。機会と経験を積む場所を、先ず作る必要があるでしょう。
(論説委員・山口裕光)

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2013年10月1日号

ネット依存からいのちを守れ

電車やバスの中どころか、歩行中、さらには自転車に乗りながら携帯やスマートフォン(スマホ)をいじっている若者の姿に眉をひそめていたのであるが、本年8月、厚生労働省の研究班によるインターネット依存症(「ネット依存」)に関する調査結果が発表され、慄然とさせられた。
研究班が無作為に選んだ全国264校の中学・高校にアンケートを行ったところ、ネット依存の疑いがある子どもが、中学生の6㌫、高校生の9㌫、推計で51万8千人にも上ることがわかり、予備軍を含めれば、70万~80万人の子どもが該当するのではないかと推定されるという。
10年ほど前からネット依存の問題はたびたび取りざたされてきたが、ここ数年で患者数が急増、傾向も変わってきているという。以前はゲーム依存がほとんどであったが、スマホの普及によって、LINE(ライン)をはじめとするSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)依存の患者が増えているという。
毎朝起きるとまずラインやツイッターなどSNSをチェックし、通学時、授業中も食事中も、深夜寝る直前まで友達とやりとりしていて、家族との会話も減り、寝不足で日中しょっちゅう居眠りしている学生の親が心配して相談にみえたことがある。
この問題は、韓国や中国で早くから深刻で、大きな社会問題になっている。中国では約2400万人の青年がネット依存とされ、国立の施設でカウンセリングなどの治療が行われているという。アメリカでもインターネットに長時間を費やすことから離婚や解雇など深刻な問題が起きており、その治療のための施設の開設が相次いでいる。
わが国でも民間団体の取り組みが活発化してきているが、ネット依存の治療に専門的に取り組んでいる施設はまだ少ない。その中で、国立病院機構久里浜医療センターでは、長年のアルコール依存症治療で培った専門性をもとに、平成23年より「ネット依存治療研究部門」を開設し、ネット依存治療を行うとともに、ネット依存に関する研究と最新の治療情報収集にも取り組んでいる。
同センターに寄せられる相談の対象は、未成年が8割で、中高生の場合、本人に自覚がなく、保護者が相談に来ることがほとんどだという。昼夜が逆転してしまい、学校に行けなくなるケースや、携帯を取り上げられたため、お金も持たずにネットカフェに駆け込み、無銭飲食して補導された子もいるという。
摩訶止観に、病の原因には四大不順、飲食不節、座禅不調、鬼神得便、魔の所為、業起故病の六種があることが示されている(『太田入道殿御返事』)。鬼病とは、邪念に乗じて体内に侵入して体の病を引き起こし、魔の所為とは、邪念に乗じて人の心に入って、心の病を引き起こすものとされている。
コンピューターや携帯にしろ、スマホにしても、うまく使いこなせば知識の宝庫や情報伝達の手段として、とても便利である。しかし、その便利な手段を通じて、ソフトを破壊するウイルスだけではなく、人の心を脅かす鬼や魔が侵入する機会を虎視眈々とねらっていることを、真剣に恐れなければならない。
文明の利器は、人間にとって有用なものであると同時に、鬼や魔にとっても、邪念に満ちた人間に侵入する便利な手段を手に入れたことになる。
それらの侵入を防ぐために、邪念を払い、心のバリアーを築く最良の方法は、お題目信仰に他ならない。
(論説委員・柴田寛彦)

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