オピニオン

2013年9月20日

戦争と教育、真の「彼岸」とは

最近、太平洋戦争中に文化人や報道に関わった人たちが国策に協力して不都合な事実を隠ぺいし、不十分な報道や記述をしたとして、その記録や証言を取り上げた番組が目についた。
当時は、大本営の思惑から戦争遂行に協力する番組が毎日製作されていた。著名な作家たちも戦地に赴き、従軍作家として生々しい戦況を書き綴った。しかし、日本軍の勇ましい部分を書き送っても、決して不利な戦況は伝えられず、ガダルカナル島や南洋諸島での日本軍の悲劇的状況も事実を正直に伝えることはなかった。
協力したアナウンサーは、自分たちがしてきたこの過ちを認め、放送によって国民を一方的に戦争の深みへ導いたことを後悔していた。戦後68年を経て、ようやく真実を語ることができたのだろう。
学校での教育は特に問題であった。幼い子どもたちまで将来は軍人になることがこの世に生まれてきた目的であるかのように教育されていたのだ。
1930年に公開されたアメリカ映画で「西部戦線異状なし」という反戦を訴えた作品を見た。アカデミー賞を二部門受賞した名画である。内容を少し紹介しよう。第一次世界大戦下のドイツの青年パウマーが死と隣り合わせの戦場から休暇で戻ってきて母校をたずねると、教壇では教授が学生たちに、祖国のために命を捧げよ、気品高く勇敢に戦って最高の栄誉を受けよと扇動していた。かつてパウマーは、この教授の言葉を聞いて志願して戦地に赴いたのである。しかし、そこは来る日も来る日も恐怖におののき、気品どころか人間としての尊厳も全くない過酷な場所であった。パウマーは教授から、勇敢な誉れ高き祖国の英雄として紹介された。パウマーは教授の言葉を即座に否定した。そして戦争の現実を話した。ある日突然、ペンを持つ手に銃を握らされ、いつ殺されるかわからない恐怖におののき、毎日塹壕を掘って一日中身をひそめ、一刻も早くこの場から逃れたかったという気持ち、軍服と武器を捨てれば友だちになれる相手を殺すのが戦争であるということ、弾丸に当たって死んでいった多数の兵士の姿。この兵士の人生は何だったのだろうか、どこにも気品などないし英雄でもないと後輩の学生たちに話した。当然ながら教授と対立し、学生たちから臆病者とののしられ、パウマーはその場を去った。休暇を終えて再び戦地に戻り、割り切れない気持ちのまま、パウマーは戦争を嫌悪しながら死んでいった。だが、部隊の責任者から本部への報告はいつも「西部戦線異状なし」であった…。
この映画を見てつくづく思うのは、教育がいかに重要であるかということである。かつての太平洋戦争のときも、この戦争は正義である、戦地へ赴いたら生きて帰るな、捕虜になる前に自爆して死ね、生き恥をかくな、などと教え込まれたため、より悲惨な結果を生み出したと言えよう。
正義の戦争などひとつもない。どんな場合でも戦争は悪である。人は平和の裡に暮らす権利があるのだ。これは、日本国憲法に由来するに限らず、人類普遍の権利である。お彼岸を迎えるに当たり、真の「彼岸」とは何かを考えよう。(論説委員・石川浩徳)

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