オピニオン

2013年9月10日

「自尊感情」と言葉の布施行

あわただしく家を出て、時計に目をやりながら、出勤時間に間に合うように早足でようやくたどり着いた駅の構内では、「ただ今○○駅で人身事故のため、大幅な遅れが出ております。皆様には大変ご迷惑をおかけしております」という内容の放送が流れ、一同が「えー! またですか?」と深いため息をつく光景。少なからずとも東京に住む人々は、「えー! またですか?」と心の中で、その頻度の多さを嘆いたことがあるのではないだろうか。人身事故は、全国の統計で年間約650件報告され、その約90㌫が投身自殺であるという。しかし、通勤ラッシュにいら立つ現代社会人の心情には、身を投じた人、一人ひとりの悲しみやそれまでのストーリーを想像し、寄り添えることさえ難しいと思える風景が、事実都会の慌ただしさと共に存在している。今、なぜ自分の命を自ら断ってしまう人が、急激に増えているのであろう。人間関係が、様々に混在するこの社会に絶望してしまったのであろうか。不安で未来の展望ができなかったのか。
財団法人日本青少年研究所が発表した日本、中国、米国、韓国4ヵ国の青少年に「わたしは価値のある人間である」「自分を肯定的に評価するほうだ」「自分に満足している」というアンケートの結果を見ても、日本の高校生は、自分に対する評価が最も低かったという結果が出ている。ここに示された原因に、自尊感情の育ちの弱さがあると私は思っている。自尊感情とは、「○○ができるから自分は偉い」というような他人と比べて評価されたり、優越感を感じたりして抱く社会的な側面ではない。「特に○○ができなくても、自分は自分で良いのだ。それが自分らしいのだ」「ありのままの自分でじゅうぶん生きていける」というような自分に対する信頼感をいう。この育ちは、一人ひとりの人間が、今後の生き方に大きく影響するものとして重要であることを、提唱したい。
人間は、本来嬉しいとか幸せというプラスの感情と、怒りや悲しみ、嫉妬などの負の感情の両方を持って生きている。しかし、人が育っていく中で、「できた」「勝った」などの成功した時に抱くプラスの感情だけを認められて、「できなかった」「辛い」などの負の感情を否定や拒絶されて育ってきた環境にあっては、「自分まるごと、ありのままの自分」を受け止められなくなってしまうのである。柔軟な心を持つ幼児期に、自尊感情の土台は築かれることを知っていただきたいと思う。保護者を中心に養育者などの他者が、いかに「自分まるごと」を負の感情とともに受容してくれたか否かが、自尊感情の育ちに深く関わると思う。「大丈夫。そんな時もあるよね」「大丈夫。明日(又は次に)できるといいね」というような表現である。この受けとめが、信頼している人によって繰り返され、積み重なっていくことで、負の感情を表現することや、負の感情と折り合いをつけながら自分を励まし、どう行動しプラスの感情に転換していくか又は、導いていくかという過程を踏むことができるのである。私は、決して身を投げた方達を批判してるのではない。こんなにも悲しいことを見て見ぬふりをしてはいけないのである。自分を励ます言葉を持つ子どもを育てていきましょう。これは、我々大人にも共通することである。「失敗してはいけない。弱音をはいてはいけない」ではない、希望と勇気を与える言葉は、言霊としてその人々に届くのである。布施とは、金品を差し出すだけの事ではないのである。言葉の布施行を皆で実践してみましょう。それは、周りにいる人々に関心を持つことから始まるのではないだろうか。(論説委員・早﨑淳晃)

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