オピニオン

2013年2月20日

美術に信仰を学ぶ

平成23(2011)年1月22日から24年5月13日まで、日本経済新聞の朝刊に連載された歴史小説『等伯』が、昨年9月に上下2巻として刊行されて、このたび文学賞の直木賞の授賞となりました。作家の安部龍太郎氏は、ご自身のご苦労を、絵仏師として波瀾に満ちた長谷川等伯(1539-1610)の生涯とを重ね合わせて執筆したと、朝日新聞のインタビューに答えられています。
ところで、私自身がはじめて長谷川等伯の作品に出会い、感動を覚えたのは、およそ40年余り以前のことです。岡山県の博物館に展示されていた等伯の若き信春の名によって描かれた「花鳥図屏風」だったのです。
等伯は、室町時代の天文8年(1539)、今日の石川県七尾市に誕生し、父は七尾城主畠山氏の家臣で、奥村文之丞宗道です。幼名は久六、また又四郎と称しました。幼いとき染物屋の長谷川宗清のもとへ養子に迎えられます。生家の奥村家の菩提寺は、日親上人開山の七尾市本延寺であり、また長谷川家も畠山氏ゆかりの同市長壽寺であったのです。つまり、等伯は生まれながらに両家の帰依していた法華経の教え、日蓮聖人の教えに関わりがあり、また等伯自身も深く帰依していたことがうかがえます。
たしかに、日本美術史の視点からみれば、等伯の代表的作品は、国宝の「松林図屏風」(東京国立博物館蔵)あるいは、豊臣秀吉の命によって描いた今日の京都智積院所蔵の障壁画であることは間違いないでしょう。しかし、法華経信仰、あるいは日蓮聖人の教えの視点から、等伯の作品に目を向けてみますと、その出発点には法華経の教え、日蓮聖人の教えが根底にあって、その後の活動が展開することを知るのです。
たとえば、み仏のご入滅の絵としては、能登妙成寺の「仏涅槃図」さらには、縦10メートルほどの長さをもつ京都本法寺の「仏涅槃図」等があげられますが、妙成寺蔵の「仏涅槃図」は、30歳の作品で、見事に描かれています。
また、30歳までの作品としては、京都妙傳寺所蔵の「法華経本尊曼荼羅図」が存在します。これは日蓮聖人の教義に精通した人の導きによるものであることは明白です。また、富山県高岡市大法寺所蔵の「釈迦・多宝如来坐像」は等伯26歳の作品で、最上部には日天子、明星天子、月天子の三光天子を表す円相が描かれ、その下の中央にはお題目の塔が描かれています。そして左右の蓮台には釈迦牟尼仏と多宝仏とが並座され、その下段には上行・無辺行・浄行・安立行の四大菩薩が蓮台に着座され、さらにその下の右には、獅子の上の文殊菩薩、左には白象の上の普賢菩薩が荘厳に描かれています。
さらに大法寺には、日蓮聖人が法華経を説法される姿を描いた日蓮聖人像が存在します。上部の中央にお題目、右には太陽(日天子)左には三日月(月天子)、その下段には、みごとな天蓋、そして中央には、法服・七条袈裟・横被を着された日蓮聖人の説法の姿が細密に描かれています。そして署名としては、長谷川又四郎二十六歳をとし、「信春」の朱文印が捺され、また右下には養父である長谷川道浄の署名と「宗清」の朱文印があることが知られます。
このように、若き日の等伯は、養父とともに、20代にしてすでにみごとな法華経の世界を描き、また日蓮聖人像等を描いていることからも、その力量がうかがえます。それと同時に、奥村家、長谷川家に継承されてきた法華経信仰と、諸師の導きとの大切さを知るのです。

(論説委員・北川前肇)

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