オピニオン

2013年1月10日

便利さの裏返し インターネットの普及と発展から

いよいよ新しい年を迎え、正月の風景と冬の景色に、美しい日本の四季を感じる。私の住む東京でも冬空は高く澄み渡り、新名所の東京スカイツリーが颯爽とそびえ立っている。さらに、極めてまれではあるが鉄橋を渡る車窓から、富士山を見ることができる。遠く離れたこの山ではあるが、なぜこんなにも富士山を見ることができた時に嬉しくなるのだろうか。そう思うと自分は、根っからの日本人であることを改めて自覚するのである。雪をかぶった富士山の美しさに胸高鳴り、この嬉しさを共有したくなり、近くにいる誰かに教えたいと、電車の車内を見渡すが、殆どの人が下を向いて携帯電話に夢中になっている。これは、ところ限らず都会の新しい日常風景となっている。
現在、自分の意思で携帯メールやインターネットをやめることができない、インターネットをしていないと不安やいらだちを覚えるなどをいう、インターネット依存症(造語であるが)の日本人は、270万人を超えるという報告があがった。そして、キレる、引きこもる、社会生活が送れないなどの症状を引き起こす可能性が高くなるなどの、様々な弊害が深刻な社会問題になってきている。韓国、アメリカではその対策を10年も前から国が講じている。さらに、日本の対応の遅さを指摘され、動かない国政に変わり、民間団体では調査研究を進め、既にその報告書と対応策は文部科学省、厚生労働省に提出されている。急がねば手遅れになると私も思う。なぜなら、その一番被害者となるのが子どもであるからだ。
子育てをしている家庭に広がり、まさにその子どもが、影響を受けて育ってきている。「表情の乏しい子ども」「目が合わない子ども」の増加である。1歳までの乳児はこの時期、特に大切な心と心を通わせる人間的な関わりによって、自分を不快から快へ導いてくれる存在として母親を、絶対的な信頼者として位置付け、安心という基地に抱かれながら、情緒が発達していく。やがてそれは、細かな感情へと細分化されて、ヒトが人間となり社会性を身につけていく。母親の話しかける言葉、仕草、表情を見て聞いて乳児は、学習していくのである。
しかし、ネット社会の普及と発展に伴い、これらの便利な情報収集ツールは、育児中、特に授乳中の母親にとって、最適な時間となってしまう。母親は、携帯電話やスマートフォンの操作に夢中になり、言葉をかけず、目を合わさずただミルクを与えるだけの行為。乳児は、ただおなかを満たすという、積み重ねを招く危険性がある。子育てには、様々な場面でのコミュニケーションの積み重ねが重要になるのであるから、これはほんの一例である。先人は、「育てたように子は育つ」という言葉を残した。子ども達にも、やがて子育てをする時がくるであろう。子育ての伝承においてもどうか、人と人のコミュニケーションが、無機質なものを通してではなく、心と心が通じ合う人間的な営みとして再び見直されるように祈るのである。
鎌倉時代、宗祖日蓮聖人は、真筆写本を含め400編以上の御書を遺された。特に女性信徒に宛てた手紙からは、思いやりの深さと慈悲あふれる内容は皆知るところであろう。大変不謹慎ではあるが、これが、もしも「メール」であったならば、これだけの感動を味わうことができたであろうか。また、大切に後世まで引き継ぐことができたであろうか。「便利」への欲求を少し抑えてこそ、繊細な感性と奥深き人情が生まれる。

(論説委員・早﨑淳晃)

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