日蓮宗新聞

2012年1月1日号

新春のご挨拶

安穏な社会づくり、人づくり この娑婆世界こそ常住の浄土に

内野日総 日蓮宗管長(総本山身延山久遠寺法主)

平成24年壬辰の初春にあたり、日蓮大聖人棲神の祖山より宗門各聖各位に年頭のご挨拶を申し上げます。
昨年の日本は、近年類のない東日本大震災という未曾有の災害にみまわれました。東北地方を中心とする東日本各地においては、数多の尊い生命が奪われ、災禍を被った方も数知れず、未だ多くの人々が不安と悲しみを抱いて生活をしております。犠牲者諸霊位に衷心より御回向申し上げ、被災者の皆さま方に心よりお見舞い申し上げる次第であります。また、被災地の速やかなる復旧・復興をお祈り申し上げます。
さて、私どもは自らの思考の及ばない出来事に遭遇したとき、必ずと言っても良いほど先人の経験や言葉を求めるものであります。昨年の災害にあっても未曾有と称される様に、計り知れない未知の出来事に遭遇したことから、誰しもが不安と戦い、絡み合った惨状を打開する道筋を模索していたことが拝察されます。
私どもも同じく、宗祖が遺された文献やお手紙を拝受することで、宗祖の思いに直に触れ、我が身の追体験として指針を仰ぐことがございます。
人類、否、生きとし生けるもの全てが安穏に過ごせるみ仏の世界とは如何なるものか。宗祖がこの娑婆世界こそ常住の浄土と申された理由とは何であるか。私どもは宗祖のお言葉を改めて拝受し、我が身の使命を再確認しなければならないと深く感ずるのであります
その中で近年の世相を顧みますと、宗祖ご在世にも現今の世相と酷似していたことが伺えます。
宗祖が『立正安国論』をご執筆された背景には、正嘉元年(1257)の「正嘉大地震」、翌年より続く「大風・大雨」、そして文応元年(1260)の凶事を現す「大彗星」の発生があったことが記され、宗祖の根本思想の原点とも言える『立正安国論』の冒頭には「近年より近日に至るまで、天変地夭・飢饉・疫癘、遍く天下に満ち、広く地上に迸る」と、その災禍が天下に満ち広がる様相が述べられ、世上に生きる民衆の嘆きや苦しみが描かれているのです。
日蓮門下である一人ひとりは、常日頃より法華経を拝読し、ご遺文を通して、信仰の研鑽を積んでいることと存じます。法華経を最勝のみ教えとし、法華経に記される一切衆生を救済する上行菩薩を感得された宗祖のお姿に触れますとき、その温かく力強いお姿を我が身の指針としないものはおりません。
然らば、私ども一人ひとりが異体同心にして、身命を惜しむことなく人類救済の一助となることが肝要であります。
平成23年度の布教方針には、宗門運動「立正安国・お題目結縁運動」の活動項目として、安穏な社会づくり、人づくり、更には、震災の復旧・復興を支援する緊急活動項目としての災害支援活動が明記され、その現状を鑑みた早急なる姿勢は、現代の世にあって急務のものであったと拝察いたします。
災害以後、全国日蓮宗青年会や管区青年会・各ボランティア団体の各聖が、被災地に入り救援活動を行っていることは周知の如くでありますが、引き続き、宗門をあげての支援活動を行い、速やかなる復旧・復興の基盤を築き、立正安国・仏国土顕現の実現を邁進して頂きたく存じます。
「異体同心なれば万事を成し、同体異心なれば諸事叶うことなし」と申します。願わくは、日蓮が弟子檀那等、自他彼此の心なく、水魚の思いを成じて、異体同心にして南無妙法蓮華経と唱えられますことを念じて止みません。
結びに、四海静謐の世を願い、万民が安穏なる社会・人・心に満たされ、宗門各聖、檀信徒各位の幸ある年を祖山よりお祈り申し上げ、念頭の所感といたします。
南無妙法蓮華経

 

今、生かされている「いのち」に感謝 宗門一体で、心のケアに取り組む

渡邊照敏 日蓮宗宗務総長

平成24年の新春を迎えるに方り、新年の御挨拶を申し上げます。
昨年を振り返りますと、世界各国にて天変地異が頻繁に起こる大変な年であったと拝察致します。
日本に於いては、3月11日にマグニチュード9の大地震が東日本を襲い、それに伴い今まで類を見ない大津波が発生、又東京電力福島第一原子力発電所の放射線汚染など、東日本を始め日本各地に未曾有の被害をもたらし私達の予想を遙かに超える大災害となりました。
この大震災により数多の尊い命が奪われ、死者は約1万5千人・行方不明者は約5千人にのぼり、残されたご家族のお気持ちを考えますと心が痛むばかりであり、亡くなられた方々の御冥福を心よりお祈り申し上げます。
世界各地に於いても大地震が発生し、更には豪雨による河川の氾濫などにより多くの尊い命が奪われており、将に日蓮大聖人が示された末法の様相を呈しております。
その様な中に在って現在宗門では、日蓮大聖人御降誕800年を目途とする宗門運動「立正安国・お題目結縁運動」を「いのちに合掌」をスローガンに「安穏な社会づくり、人づくり」の実現の為、平成19年より15年間を4期に分け活動しており、昨年より2期目の「育成活動」へと入りました。1期目の「播種活動」にて播いたお題目を育成し、華を咲かせるべく展開し、全国の寺院・教会・結社をはじめ教師・檀信徒の皆様方と同じ目線に立ち異体同心して、開かれた明るい宗門、風通しの良い宗門にすべく努めて行く次第であります。
2期目の活動と致しましては、「無縁社会」と言われる世上を顧みた時、家族も社会も心の繋がりが失われ、本格的な少子化・高齢化が進みつつある今日、私達が但行礼拝の精神に基づき敬いの心で、今生かされている「いのち」に感謝し「心・社会・人」を育むべく推し進めております。
又、緊急活動項目として「災害復興支援活動」を取り入れ、被災者への支援はもとより、被災地の一日も早い復興、更には、被災された方々の心のケアに宗門一体となって取り組んでまいります。
『崇峻天皇御書』に「一代の肝心は法華経、法華経の修行の肝心は不軽品にて候なり、不軽菩薩の人を敬いしは、いかなる事ぞ、教主釈尊の出世の本懐は人の振舞にて候けるぞ」と示されており、私たちの日々の振舞や行いこそが大切なのであります。
宗徒一人ひとりが「いのち」に合掌する姿勢こそ今の社会に最も大切な事であり、お題目の御縁により日蓮大聖人の大誓願であります皆帰妙法・仏国土顕現の実現に向けて共に歩みを進めて行くことを念じ年始のご挨拶といたします。

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ことぶき法話

平成24年の黎明に

千葉県市川市 本山真間山弘法寺
石野日英 貫首

この新聞は元旦号なので新たな歳を寿ぎ船出を志すような慶びの言葉ででも書き初めねばならぬのだが何度書いても考えても出来なかった。
然しそれは私だけではなく今年の年賀状からは“おめでとう”とか“賀正”とかの用語が殆んど消えてしまったとのことだ。それだけ日本国中の人々がこの大惨事を吾がことのように辛く感じているのだろう。
さて、この原稿を書きあげようとしていたある日、世界的バイオリニストの天満敦子さんより突然「お上人、そちらのお堂で供養の曲を奏かせて下さい」とのお申し出があった。
こちらは勿論犠牲のみ霊と共に名演奏を拝聴させて頂けるので一も二もなく承諾した。天満さんはそれまでにも何度か当山で演奏会を開いて頂いたご縁があった。
実は天満さんのご先祖は福島県の南相馬である。しかもこの度の大震災で津波に流され親族の3人が未だに発見出来ないとのことであった。
亡くなったのは勿論、残念無念で仕方ないが、その亡骸さへも不明であるのはどんなに亡き諸霊が浮かばれぬか、その迷っている苦しみや悔しさを思うと、その瞬間からやりどころのない怒りと悲しみが襲い涙がとめどなくこぼれてくるとのことである。
恐らく現在行方不明とされている諸霊の殆どは同じような目にあっているのだろう。
何と残酷なことであろうか、私どもも本山の朝のお勤めで毎朝、犠牲の諸霊魂の菩提を弔らい回向しているが、そんなことだけで霊の安らぎなど得られるのであろうか少々心許なくなってしまった。
フト彼の有名な金子みすずの詩の一篇を思い出した。“大漁”と云う題である。
「朝やけ小やけだ 大漁だ 大ばいわしの 大漁だ はまは祭りのようだけど 海のなかでは 何万の いわしのとむらい するだろう」
犠牲のいわしの悲しい声なき声を聞こうではないか、それが供養のせめてもの一端となるならば。知らない間に流され海の藻屑となり、土砂の下敷きになっても訳もわからず別れの一言も告げられず人目につかぬ寂しい場所へとやり置かれているご遺体。
その遺族も何とも云えぬ恨み、悲しみ、怒りをそれぞれに抱いていることだろう。
天満さんも被災地の東北へ何ヵ所もボランティアで演奏しに出向いている。奏いているうちに、これは誰のために奏いているのだろうと迷う時があるという。奏いているうちに聴衆の顔も消え、亡き祖父祖母の優しそうな顔のみが浮かんでくるそうだ。やはり亡き霊に全てを捧げているのだと感じてくるそうだ。
聴衆の顔を見ていると、皆それぞれこの大災害の悲しみに対する感じ方や思いの度合が違うのだろうと思われる。
誰にも真からの悪意はない。しかし、知らず知らずに犯している罪はこの世に生を享けてから山ほどあるはずだ。多くの人々に悲しみや苦しみを与えてしまっているのではないか。

話はかわるが私どもの本山では山務員は宮澤賢治さんの「雨ニモ負ケズ」の詩を暗記することになっている。今では山務員全員が暗誦できるようになった。
今、改めてこの「雨ニモ負ケズ」をしみじみと読み返すと何と多くの、しかも深い教えを説いてくれていることだろうと感動せざるを得ない。そしてそれは身体の中に深く染み込んで行くようだ。そしてそれは心の底で深く深く読誦した賢治であればこそ書き得たものであると思う。
故に軽々にこの詩を読むことはできない。なぜならば私達に法を、そしてお題目を説いて下さっている本仏のお釈迦さまやお祖師さまを仰ぎ見させて頂いているからだ。
かつての東北地方には賢治出生の2ヵ月前と生後5日目そして亡くなったその歳に大地震とそれに伴う大津波があった。賢治は「海岸は実に悲惨です」と書き残しているそうだ。
法華経の教えそのものを、そのままわかり易く難解な仏教用語を使わずに書いたのがこの「雨ニモ負ケズ」の詩である。
“雨ニモ負ケズ、風ニモ負ケズ 雪ニモ夏ノ暑サニモ負ケズ丈夫ナカラダヲモチ”
この一節はまさしく被災なさった方々の辛い思いとこれから頑張らねばと云う覚悟を示されたもののように思われる。
この大変な時代をふり返り亡くなられた方には成仏を祈り被災者には蘇る力を与えて頂けるよう南無妙法蓮華経のお題目を心静かに唱えて祈りたい。
頑張ろう日本!!

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新年のご挨拶。

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