日蓮宗新聞

2011年10月10日号

お会式法話

娑婆世界で懸命に生きていくことに価値がある
身延山大学学長・東京都修性院住職 浜島 典彦 師

謹んで申し上げます。身延を出発してから、道中は何事もなく武蔵国池上に到着致しました。道中、山あり河ありで、困難な旅でしたが、貴殿の御子弟に守られて無事に池上まで着きました。誠にありがたく悦ばしく思っています。(『波木井殿御報』)
日蓮聖人はお世話になった方、ご恩ある方へ事あるごとに御礼の書を認められていました。配流の地佐渡に到着された時には下総国の有力檀越富木常忍師へ、身延に到着された時は同じ富木師に宛てられているのです。
弘安5年(1282)9月8日身延の山を発ち、常陸国加倉井への湯治を目指す途中、18日池上に着かれました。池上到着の翌日、9ヶ年間庇護していただいた波木井(南部)実長公へ深甚の謝意を表すことから始まる書『波木井殿御報』を綴られているのです。その文中でご自身の容体について触れ、
病気の身ですから、必ず身延に帰山できるかどうかは定めなきことであります。あるいはお会いできないかもしれません。
と臨終をも覚悟されていた様子が窺えるのです。
日蓮聖人の絶筆ともいうべきこのお手紙は残念ながらご自身によるものではありません。六老僧の一人である日興上人が代筆されています。追伸には「病気のため、花押(かおう)を書き添えることができません。誠に申し訳なく思います」とまで記されているのです。
日蓮聖人は午年の貞応元年(1222)2月16日に御降誕され、午年の弘安5年(1282)10月13日に入滅されています。そして末文には
貴殿からお世話いただいた栗鹿毛の馬は大変愛着を覚えますので、いつまでもそばにおきたいと思います。
と身延より池上の地まで、わが身を11日間にわたり乗せてきてくれた馬への思いやりで終わっているのです。
東京大学総長を務めた矢内原忠雄氏は、日蓮聖人の御生涯について次のような表現をしています。
日蓮の公の生涯は立正安国論に始まり、立正安国論に終わる。(『余の尊敬する人物』)矢内原氏は内村鑑三の影響を受けた篤信のクリスチャンでした。鑑三が『代表的日本人』で日蓮聖人を高く評価したように、39歳7月16日の奏進より、池上での最後の講義に至るまで波乱万丈の御生涯は『立正安国論』と共にあるとし、その事績を称えているのです。
それでは矢内原氏が御生涯共にあったと指摘する『立正安国論』には、何が訴えられているのでしょうか。次の2項目がそのキーワードであると私は考えるのです。
1「此土」と「他土」
2「成仏」と「往生」
日蓮聖人は当時の鎌倉の世の混乱はお釈迦さまの御心と違った教えに基づいていることに原因があるとされ、邪な教えを早く改め正しい教えに帰すことが大事であるとされました。
他の世界に往って救われるという教えではなく、四苦八苦が充満するこの娑婆世界(忍土)で一生懸命に生きていくことに価値がある、この世から逃げずに共に生きていこうというお釈迦さまの教えには必ず救いの世界があると示されたのです。
極楽で積む100年間の修行の功徳も、この穢土で積む1日の修行の功徳には及びません。(『報恩抄』)

京の街がお題目で溢れた時代がありました。都の7割が法華となり、21もの日蓮宗本山が甍を競う情況、「町衆文化」が京都に華開きました。
西暦1467年から11年間にわたっての戦乱、応仁の乱により京都の町は荒廃のどん底にありました。廃墟となった街の惨状を見た京の人々は絶望の極みにありました。
彼らを奮い立たす教えが東方からやって来たのです。現実から逃避しては駄目だ、この世界を見つめて共に確りと生きていこうと叱咤激励する立正安国の教えが瞬く間に受け容れられていったのです。

今、東北の被災地の方々を励まし、勇気付ける歌が2つあるといいます。その1つが坂本九ちゃんの「上を向いて歩こう」、そしてもう1つが宮沢賢治の「雨ニモマケズ」だそうです。
「雨ニモマケズ」の中ごろには「東西南北」に行ってさまざまな善行に取り組むことが書かれています。それは余計なお節介といえるかも知れません。しかし、この余計なお節介がとても大切なのです。お節介は他者と共に歩むという法華菩薩道に他ならないのです。
日蓮聖人が御生涯をかけた立正安国の教えが「雨ニモマケズ」という詩となって被災者の方々を励ましているのです。

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