2005年11月10日号
大本山中山法華経寺 大荒行始まる
日蓮宗に伝わる祈祷法の伝授を受けるため、僧侶が寒中百日間の苦修錬行を行う日蓮宗加行所(大荒行)が11月1日、千葉県市川市の中山法華経寺(貫首・新井日湛加行所伝主)大荒行堂において始まった。
木剣を用いる日蓮宗独特の力強い加持祈祷。現在その修法が許されるのは、この100日間の苦修錬行を果たした“修法師”に限られている。
今年入行した151師は来年2月10日まで、佐野前暁正伝師(福岡県日蓮聖人銅像護持教会主管)はじめ6人の伝師部の指導を受けながら、1日7回の水行と読経三昧、修行の回数に応じて初行・再行・三行・四行・五行それぞれの秘法の伝授を受ける。
1日の入行会では、剃髪し清浄衣姿の入行僧が緊張した面持ちで整列し、全身から経文がほとばしるような大音声が法華経寺祖師堂を包んだ。
境内には多くの寺族・檀信徒が見送りに訪れ、午後3時、100日間開くことのない、荒行堂に入る「瑞門」をくぐるまで、世界三大荒行の一つともいわれる厳しい修行に挑む入行僧を見守った。
文字通りの“荒行”
一年の中で最も極寒の100日間。朝は午前3時前に起床し、午前3時から午後11時まで7回の水行。水行の合間は読経三昧に加え、入行回数によって伝師や先輩僧侶から指導を受ける。1日3時間弱の睡眠と、一汁一菜の粗末な食事。衣は白木綿単衣一枚と麻の如法衣だけ、足袋は許されず刃物で刺されるようなあかぎれの痛みが続く。同時に襲われる飢えと寒さと睡眠不足。自己を責め、鍛え、耐え抜く。文字通りの荒行だ。
決意を胸に入行会
「身体に気をつけて」「留守を頼みます」 。澄み渡った秋晴れの1日、境内には早朝から師僧や留守を託す寺族・檀信徒と挨拶を交わす入行僧の姿があった。午前9時、昇堂の号令とともに大荒行堂正面の扉が勢いよく開くと、世間とのつながりを断ち修行の世界に身をゆだねる固い決意と緊張に満ちた入行僧は、祈るような表情で手を合わせる寺族・檀信徒に見送られ入堂した。
入行会で日蓮宗宗務総長名代・栗原正震伝道局長は「修法は他の宗教には例をみない本宗独自の布教手段です。この布教手段をもって日蓮宗は一段の教線拡張をはからねばなりません」と修法に対する期待を述べ、新井日湛貫首は「100日後の2月10日にこの祖師堂で元気よく成満会を迎えて頂きたい」と激励。
佐野前暁正伝師は、荒行の原点として戒(行堂清規を遵守すること)と定(精神を統一し集中すること)をあげ、「二つが備わって初めて、仏と会話し仏からの応えを頂くのです。その応えをもって混沌とした時代を解決するのが修法道であると思っています。本日入行する各聖各位の人間的地位、社会的地位、命、すべてをお預かりし、来年の2月10日にお返し申し上げます」と挨拶。全堂代表の若松宏泉師(北海道妙心寺住職)が「行堂清規を遵守し不自惜身命の決意をもって苦修錬行に精進することを誓います」と宣誓した。
入行会終了後、いよいよ荒行堂の「瑞門」に向けて行列が開始した。お題目を唱えながら法華経寺開基・富木日常上人御廟、奥の院を参拝し、仁王門をくぐり瑞門へ。「お上人、がんばって!」。檀信徒らの張りあげる声援を背に、入行僧は固い決意を胸に瑞門をくぐった。