2005年9月20日号
幻想的な世界へ誘う 中山薪能
立秋を過ぎた夏の夕暮れ、満月と篝火のほのかな光の中に幽玄な世界が浮かび上がった。千葉県市川市の大本山法華経寺(新井日湛貫首)で8月20日、中山薪能実行委員会主催の今回で3回目となる中山薪能が行われた。法華経寺という700年の歴史を刻む空間に五重塔がライトアップされ、幻想的な世界へと約1800人を誘った。
新井貫首は挨拶に立ち、「夜のしじまに繰り広げられる優美な世界を楽しんでください」と話し、昭和4年に祖師堂で行われた能の衣装を法衣に仕立てたものをまとっていることを伝えると観客から感嘆の拍手がわき上がった。その後、千葉光行市川市長の挨拶、武蔵野大学名誉教授増田正造氏の演目解説が行われた。
新井貫首と千葉市長による火入れ式の後、金春流の仕舞「杜若」「鵜飼」、和泉流の野村萬斎師による狂言「成上り」が演じられ、古来伝わる狂言のユーモラスな動きと話に終始笑い声が上がっていた。最後に金春流の金春安明師が能「黒塚」を演じ、五重塔に鼓や笛の音が反響する幻想的な空間の中で人々は日本の伝統文化に触れ、慌ただしい一時から離れ、心静かに華麗な世界を堪能した。