2004年7月10日号
横田さん夫妻、拉致問題を訴える
日々の生活を、何の障害もなく過ごすことができるのは“人権”が保障されているからである。生きる基本となる“人権”すら認められないとすれば、何を信じ、何を希望に生きていけばよいのか。或いは愛する人が忽然と姿を消し、その状況を強いられているとしたら…。「拉致は究極の人権侵害」という悲痛な訴えは、残酷な現実を突きつけた。日蓮宗人権擁護委員会(植坂行雄会長)主催の、人権研修会「拉致問題の真実を聞く―ブルーリボンに願いを込めて―」が6月7日、日蓮宗宗務院で行われた。各地で講演活動を展開している横田滋さん(71)・早紀江さん(68)夫妻が招かれ、僧侶、檀信徒、一般から約250人が聴講し、大きな反響を呼んだ。
講演に派手さはないが、巨大な犯罪に立ち向かう姿勢に揺るぎはない。横田さん夫妻はただ、北朝鮮に拉致された娘のめぐみさん(当時13歳)他、拉致被害者を救うため、一人でも多くの人に拉致問題に理解を持ってほしいと声を振り絞り、訴えを続けている。
突然、煙のように消えた娘
横田滋さん発言(要旨)
めぐみは昭和52年11月、バドミントンの練習を終えて
の帰り、突然に姿を消した。その日のうちに捜索願いを出し、その後もテレビ等で情報を呼びかけたが、何の情報も得られなかった。
平成9年に、思いがけず平壌にいるという情報を得た。その後も信頼できる情報として、工作員を養成する学校にいたことを知った。
拉致は「究極の人権侵害」と言われている。憲法に、個人の尊重や公共の福祉を定めた条項が多々あるが、拉致に関しての認識は薄いように感じる。
「この経済不況の時に、拉致にお金を使うなんて」「たった10人程の拉致問題で日朝国交正常化が滞っては日本の国益に反する」との意見もあるが、皆さんが関心を示さなくなれば、また起きる可能性があるということを考えてほしい。ぜひ関心を持って下さい。
皆さんのご支援を…
横田早紀江さん発言(要旨)
突然、煙のように消えためぐみの手がかりを求めて、泣きながら海岸を探し歩いた。
元工作員によると、めぐみは連れ去られる際、恐怖と悲しみで泣き叫んだため、船底に閉じこめられた。床や扉をかきむしり、着いた時には爪がはがれそうになっていたという。事実を知った時は、平和な日本にこんなに恐ろしく、悲しいことがあったのかと怒りでいっぱいになり、涙すら出なかった。
めぐみの噂は色々あるが、私たちにとって、真相は27年前と同じ闇の中。ただ生きていると信じるしかない。
拉致は北朝鮮の国民のためにも解決すべき。一人ひとりは日本人と同じようにやさしい心を持ち、一つの体制下で一生懸命生きているのだと思う。
「いつか迎えに来てくれると信じて待っていた」とは蓮池さんの言葉。大切に育てられたたくさんの子供たちが、あちらこちらで連れ去られ、迎えを待っている。一刻も早く助けてあげなければならない。どんなに苦しくても、私たちはこれからもがんばっていきます。また、子供たちの帰国でその他の拉致被害者の捜索、救出が打ち切られることのないよう、皆さんのご支援をお願いします。
被害者の力になって
「日蓮宗人権擁護委員会」は、人間の尊厳と平等は仏教の説く基本理念であるとの立場から、特に宗門内外での人権思想の普及・高揚をめざして結成された組織。
これまで、布教活動に関わる差別用語の問題、子ども、高齢者、女性の人権問題等について研修会を持ち、宗内に
発言してきた。
植坂行雄会長は「拉致という行為は人間の基本的人権を蹂躙する許し難い行為。北朝鮮は誠意を持って謝罪し、不明者の調査、帰国支援にあたるべきであることを強く求める。拉致被害者の苦しみと怒りを私たちも受けとめ、力になっていかなければ」と語っている。
日蓮宗徒に届けられた声を、この日の記録だけに留めてはならない。拉致問題について深く考え、解決策を模索する機会を持ちたい。